近年、メンタルヘルス不調者の増加が大きな社会問題となっているのに伴い、筆跡情報を用い、定量的に評価する方法で早期にリスクを把握する研究を進めています。この研究では2010年からの4年間、200名の大学生に協力してもらい、デジタルペンによる筆跡情報を取得しました。筆跡情報を利用する大きな理由は、書字行動が、脳の本質が見えるとされる“無意識”で行われることにあります。内田クレペリン検査という、1桁の足し算をし続ける一種のストレス負荷検査では、「GHQ30」という用紙を使って精神健康状態を測定します。すると、1つの数字の一画目から二画目へと考えなしで移る「数字内間隔時間」は、メンタルヘルス不調の影響が少ない一方で、1つ目の数字から、計算を挟んで次の数字へ移る「数字間間隔時間」は、メンタルヘルス不調の影響が大きいことが分かりました。そして、メンタルヘルス不調に陥りやすい人ほど、ストローク間隔時間比(数字間間隔時間/数字内間隔時間)の値が大きいことも分かり、定量化ができることを示しました。また、大学1年次に高リスク群にある人は、その後3回高リスク群に該当する確率が93.3倍もあることが分かりました。さらに休学や退学についても、1年次に高リスクだった学生の割合が高くなることが分かるなど、予測にもつながることを示しました。今後は、メンタルヘルス不調を早期に把握するだけでなく、生活習慣や運動習慣といった、個人レベルでできる効果的な対処方法を見つけることが求められています。

pf-kawaguchi.jpg

川口 英夫教授生命科学部 生命科学科 脳神経科学研究室

  • 専門:iPS細胞から神経細胞への分化誘導
  • 掲載内容は、取材当時のものです