経済学は「利己的人間像(経済人)」に基づき、人々がどのような誘因(インセンティブ)によって行動しているかについて考える学問です。例えば、環境問題を訴えてガソリン消費を抑えようとしても、利己的人間は単なる命令やお説教では動かず、「自分がどうしたい」というインセンティブが必要です。そこで、ガソリン価格に適切な税金を課すなどして誘導すると、自発的にその分だけ消費を抑えるようになります。こうした経済学的思考が誕生したのは200年以上前、道徳哲学者であるアダム・スミスが利己的な人間像に焦点を当て、私益の最大化が最終的には社会の繁栄のための決定的要素になる、と現代につながる革命的な視点で自由な市場経済を擁護しました。また、経済を解明し発展させるためのさまざまな仮定は非現実的で、むしろ現実とはかけ離れた「偽」であることが望ましく、結論が現実の経済現象の実証データと一致していれば、それでよいとされてきました。しかし近年、技術革新によって、心理学や脳神経科学などにおける人間の行動や特徴についてさまざまな新しい知見が生まれ、人間は、問題を早期に解決するため、高価なものの方がより質が高いだろうと推測する、ヒューリスティクスとバイアスの理論や、直近の誘惑や目先の快楽に弱く自制心を働かせにくい、といった双曲割引の理論など、限定合理性や社会性、利他性をも含んだ、新たな前提に基づく経済学方法論「行動経済学」が登場しました。経済学の魅力は、単なる数学的モデル分析だけでなく、さまざまな分野との関連を大きく含んだ面白いものだということを知ってほしいものです。

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太子堂 正称教授経済学部 経済学科

  • 専門:経済哲学、経済思想
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