一般的に経済学では、価格を上げると物を買わない、価格を安くするとたくさん買うといった合理性を前提としてきましたが、実際は必ずしもそうした行動をとる人ばかりではありません。人々の非合理性を想定し、個人の特性の違いに考慮した政策を考えるのが行動経済学です。例えば、日雇い派遣労働者の貧困対策を、選好(好み)や行動特性と貧困の状況の関係に注目し、考えてみます。日雇い派遣労働者は、貧困状態にあり、物を購入できず、基本的なニーズが欠如しており、人とのコミュニケーションに乏しい社会的排除状態にあります。その行動特性としては、物事を計画的に行わず先送りする傾向にあることや、本来であれば長期的にお金を貯めていくべきなのに、報酬を現金にて日払いで受け取ることにより、無計画に手元の現金をすぐに使ってしまいがちなこと、などが挙げられます。このような特性を持つ人々の行動を変える政策手段には、法、規範、市場、アーキテクチャ(物理的につくられた環境)があります。法によって給与の一部を強制貯蓄させ、規範によって、貯蓄の利点を説得し、貧困者向けの預金金利を引き上げ、預金を促す市場を設け、月払い・銀行振込をデフォルトにしてしまう、などという政策で改善することが考えられます。合理的な人間ならどう行動するかを起点として、非合理的な側面を併せ持つ人の人間らしさを考慮し、手段を与える行動経済学で、少しでも良い状況にできるよう、社会制度を考えていきましょう。

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久米 功一教授経済学部 総合政策学科

  • 専門:労働経済学、行動経済学、経済政策
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