陸上動物は「足」、魚は「ひれ」、鳥や虫は「羽」などを使って運動し、私たちが目に見える世界に、回転するモーターを持つ生き物はいません。しかし、小さなミクロの世界では、微生物が持つ運動器官として、回転するモーター「べん毛モーター」があることがわかりました。べん毛モーターは、直径57ナノメートルで、1秒間に300回転ほど高速回転することができるナノマシンとして注目されています。私たちが作れるナノマシンは、これほど精巧なモーターを作ることはできません。なぜ、バクテリアは回転するモーターを運動器官として備えているのでしょうか。それには、バクテリアが住んでいる「低レイノルズ数の世界」ということが大きく関わっています。「レイノルズ数」とは、慣性力÷粘性力という関係にあり、微生物が住む世界では慣性力より、粘性力が大きくなります。粘性力が大きくなるということは、はちみつのようなどろどろとした環境にいる感覚であるということです。微生物にとって、環境に適応するということは非常に重要です。この数が低数であるということは、バクテリアのような小さな生物は、前に進むことができません。しかし、回転するモーター「べん毛モーター」を使うことによって、前に進むことができるようになります。低レイノルズ数の世界では、粘性が慣性に勝るため、バクテリアはべん毛のような回転するモーターを進化させたのだと考えられているのです。

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伊藤 政博教授生命科学部 生物資源学科 極限環境生命科学研究室

  • 専門:極限環境微生物が持つハイブリッド型生物モーターに関する研究
  • 掲載内容は、取材当時のものです