比較文学という広い範囲の学問について、領域を超えたマルチな比較研究をした南方熊楠を例にお話します。点から線へ、線から面へ、星が星座に見え、物語ができるように、知識という点をたくさん身につけ、選択し、広がった思考のさまざまな項目一つひとつについて、多角的で深いアプローチをする熊楠の研究は、世界各国の思想や学問領域に及びました。「博覧強記(広く書物を読み、さまざまな知識を持つこと)」と呼ばれた熊楠は、幼い頃から好奇心が強く、書物をたくさん読み、紙に筆写することで追体験をし、自分のものにしていきました。数学や論理学、科学で明らかにされる物の不思議と同じく、心もまた、脳や感覚器官と密接不離で、明かせない不思議ではないが、理の不思議は宇宙を貫いている真理であるため、人知で知ることができるとしています。傾注する仏教もまた人知では計り得ず、謎解きの鍵は萃点(すいてん)であり、そこに仏教の根幹である因果の道理を認識し、その視点で世界の現象を見ようとしていたのではないか、とうかがえます。ほかにも、アメーバ状の粘菌類について傾注していたことが知られていますが、彼はそこに地球環境のミニマム版を見て、身近にある小さな命が生きている環境の複雑なバランスが、人間存在の根本の探求につながると考えていたのかもしれません。身近にあふれる題材に気付き、自分自身の観点を探求し、考え、比較文学の醍醐味を実感してみましょう。

ph-arisawa.jpg

有澤 晶子教授文学部 日本文学文化学科

  • 専門:比較文学文化
  • 掲載内容は、取材当時のものです