「都市」とは、限られた空間に人や経済が集まった場所と定義することができます。では、都市はなぜ存在するのでしょうか。都市に人や企業が集中すると、「モノ」の移動コストは低下し、知識や技術といった「情報」を、効率的に安く手に入れることができます。また、企業と労働者のマッチングができ、「人」の移動にもコストがかからなくなります。一方で、居住スペースがなくなり、家賃などのコストがかかり、環境が悪化し、犯罪が増加するといったデメリットがあります。このようなモノ・情報・人が集まろうとする力(集積の経済)が、分散しようとする力(集積の不経済)を上回ったときに、都市は存在し、発展していくのです。
では、人はなぜ、都市に集まるのでしょうか。情報通信技術が進展すれば、都市は不要になるのではないでしょうか。かつて、自給自足で行われていた経済活動は、産業革命によって、船や自動車といった輸送技術が発展したことで、まず移動コストが大幅に下がりました。現代に入ると、情報通信技術の発展により、EメールやFAXなどを利用して遠隔地との「情報」のやり取りがしやすくなり、国境を越えた事業展開が進みました。こうして「モノ」や「情報」の移動が進むなか、「人」の移動にはまだコストがかかるため、今なお都市は存在し続けているのです。しかし今後、技術のさらなる発展によって人の移動コストが激減すれば、都市がなくなることがあるかもしれません。例えば仮想現実のような技術の発展は、人の移動のコストを低下させ、さまざまな生産活動を可能にしますが、消費活動の面では、実体のない体験で、本当の満足が得られるとは言えず、都市が必要なのです。このようなことも考えながら、今後の都市のあり方について注目していきましょう。

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齊藤 裕志准教授経済学部 経済学科

  • 専門:都市経済学
  • 掲載内容は、取材当時のものです