この授業では、アニメーション作品の「となりのトトロ」を題材に、テクストの解釈を実践します。例えば、サツキを襲う突風のシーンは、生を脅かす黒い影やその不安を表現している一方で、幻想を表現し、安心感を与えているようにも見えます。この不安と安心の両側面がストーリーの方向性を導いているという解釈ができます。また、最初にメイがいなくなったシーンでは、メイが水遊びをする中でトトロに出会った後、水しぶきの波紋が映り、サツキが茂みに落ちていた帽子からたどってメイを見つけます。さらにこの後には、再びいなくなったメイを探すサツキが、池の水面に浮かぶ小さなサンダルを見つけるという緊張感のあるシーンへと続きます。一見すれば、自然現象に見える、水しぶきの波紋という表象世界を構成する「反復」が見られ、新たな可能性が表出します。もし、帽子がメイのものではなく、サンダルがメイのものだったら? 池の中に何かが落ちて水しぶきが上がったシーンと、サンダルが浮かんでくるシーンが連続していたら、池の中に落ちたのは――。こうしたシーンの分析から見えてくる新たな潜在的可能性が、ストーリーを紡いでいくのです。母親が入院中であることや、子供が一人で過ごすこと、危険な水遊びといった不安に対し、見えない何かのうごめきが、小さな生を守る何かを表現しているとも受け取れます。そして、奇跡や恩寵としてのトトロやその祈りを表しているのではないでしょうか。
このように、作品の細部に着目し、ストーリーの背景を理解することで、テクストの奥行きのある立体的な解釈へつなげ、作品の世界をより深く解釈することができるのです。

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山本 亮介教授文学部 日本文学文化学科

  • 専門:日本近現代文学
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