『グリム童話』はグリム兄弟によって編纂された伝承文学で、ドイツ語で書かれた作品です。グリム兄弟はドイツ的なものといにしえのものを探し求め、ゲルマンの古代の香りのするものを収集し、修復し、保存することを目的としました。そこには「過去へと遡及する指向性」が読み取れます。
『グリム童話』は、改編を重ねて第7版まで出版されています。「白雪姫」を例に取っても、白雪姫が目覚める場面の表現は違います。本当の『グリム童話』を知るにはまず、完訳を読むこと。そして、第何版であるのか、さらに版ごとの推移を確かめましょう。複数の翻訳者の翻訳を読み、原文のドイツ語で確かめるとよいでしょう。版を重ねるなかでは、子どもの教育の書にふさわしくない描写が削除され、そこには「未来への希求という指向性」も見られます。
研究の際には、グリム兄弟が伝承文学を神話研究、法研究、歴史研究、言語学研究、古代や中世の文学研究の一環としてとらえていたと知ることから始めるとよいと、私は考えます。そして、「テキスト」「グリム兄弟」「時代や文化」によりそうことが大切です。伝承文学にはいにしえの人々の生きざまが描かれています。深く読んでいくほどに次の謎が現れ、知れば知るほど、次の扉を開きたくなります。『グリム童話』とはいわば、知識の扉の集積なのです。

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大野 寿子教授文学部 国際文化コミュニケーション学科

  • 専門:ドイツ文学文化、伝承文学、文化人類学・民俗学
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