高齢化、グローバル化、情報化といった先の見えないなかで、どうすれば安心できる社会がつくれるのか。「ふつうの生活」を送ることができるための社会的枠組みである「福祉」の発展と、それぞれの国ごとの特徴を、北欧の事例を中心に見ていきます。
社会が少しずつ豊かになっていく過程で福祉制度も整備されていきますが、国によって内容はさまざまで、豊かさによって制度の度合いが上がるとも限りません。事実だけでは国による制度の違いを説明できないのです。
デンマークの社会学者エスピン・アンデルセンによる「福祉レジーム論」は、これを分かりやすく説明しています。米・英などの、市場の自由な経済活動を重視し貧困者への保障は薄い「自由主義」、仏・独・伊などの、血縁や家族を尊重し、元からある貧富の偏りをそのまま維持する「保守主義」、そして北欧の、国が中心となり、手厚く一定水準の生活を保障する「社会民主主義」に分けられます。
日本はこの3つの要素を全て持つと言われます。貧困や失業率、犯罪発生率の低さ、教育水準の高さからいえば、社会民主主義的な要素もあるのです。これからの日本が抱える、一人暮らし世帯の増加、非正規雇用や不安定な労働形態の増加、サービス産業の増加や情報化などといった「新しい社会的リスク」には、「社会民主主義」による個人単位の社会保障制度が効果的だといえるでしょう。
藪長 千乃教授国際学部 国際地域学科
- 専門:福祉政策
- ※掲載内容は、取材当時のものです