科学技術の進展は社会に大きな変化をもたらした一方で、さまざまな領域から問題が提起されています。それらを略してELSIと呼びますが、本プロジェクトはそれらの中でも最も根源的である倫理的問題を扱っています。
この研究では、近代西洋の倫理思想だけではなく、日本、東アジア圏、ひいては非欧米地域の文化や価値観にも配慮しうる、多様な生活世界に密着したELSIを立ち上げることを目指しています。そのためには、まず私たちの倫理観、つまり“何をたいせつにしているのか”を明確にし、アジア圏の思想や価値観を言語化する必要があります。ELSIの倫理的議論には、哲学思想分野の専門的な訓練を積んだ人材の積極的な参与が求められています。
具体的な研究としては、例えば現代日本において社会現象ともいえる「推し活」を学問するというテーマのもと、共同研究に取り組んでいます。「推し活」の現場がどのようなコミュニティであるのかを、哲学・美学、宗教学、社会学といった多角的なアプローチによって明らかしようと考えるものです。その結果、私たちが何に価値を見出し、その価値を共有するコミュニティをいかに創造しているのか、コミュニティのなかに生きる人間の在り方を等身大の言葉で解明することができます。さらに「推し活」の背景にある社会課題やそれらの課題と向き合う個人の倫理観について、アカデミアの内外を問わない活発な議論を期待できる点が魅力といえます。
本プロジェクトでは人文社会学者が新しい視点をもって生産的な関与を行い、日常的で風土に根差した価値観に基づく研究開発を可能にすることを目指しています。
松浦 和也教授文学部 哲学科
- 専門:古代哲学、ELSI
- ※掲載内容は、取材当時のものです