おいしく食べることは、人にとって生きる喜びの一つです。しかし、高齢になると噛むことや飲み込むことが難しくなり、望んだものを食べられないことが増えてきます。ただ長生きするのではなく、最後の一口までおいしく健康に食べるためにはどうしたらよいのでしょうか。その方法を解明するために、多次元臨床医学研究室では、さまざまなものを食べた時の脳の反応と好き嫌いの関係を調べる研究に取り組んでいます。

2023020103_01

その研究とは、近赤外分光法(NIRS:Near – infrared spectroscopy)を用いて、いろいろなものを食べている時の前頭葉の反応を測定し、その結果と被験者の食事内容や嗜好調査を組み合わせて解析するものです。主に学生が被験者となり、研究室の学生とアイデアを出し合いながら自由な発想のもと実験・研究を進めています。例えば、「ごはんとお粥」、「鰹だしと鶏ガラスープ」を比較するなど、種類や形、色、組み合わせなどさまざまなデータを取って解析しています。まだ追加研究が必要な段階ではありますが、いくつかの興味深い傾向が見えてきています。次のステップは、脳の働きと食の嗜好性の関係の目安となるアルゴリズムが出来上がったところで実際に、高齢者、幼児、働き盛りの世代などで測定し、年齢ごとの違いを検証し、知見を深めていきたいと考えています。

この研究成果を活用することで、将来的には、認知機能や嚥下機能が低下している高齢者の脳の応答を見ながら、その人が一番好む適切な食事を提供できるようになるかもしれません。つまり、栄養と嗜好性の両方が成り立つ栄養指導が可能になるのです。人の生きる喜びの一つである「食べること」に着目し、長生きすることが楽しみになるような社会の実現を目指しています。

pf_2023020103

高鶴 裕介教授食環境科学部 健康栄養学科 多次元臨床医学研究室

  • 専門:神経生理学、老年内科学、精神医学
  • 掲載内容は、取材当時のものです