2050年には世界の人口は、100億人に達すると言われています。世界の人々が、等しく食べられる環境を作るために、人口の増加に応じて食料生産を増やしていく必要があります。しかし世界の現状を見ると、農業をするために適している農地はすでに使い切られています。そこで今、農業生産を増やすための方法として、耕作に向かない「不良土壌」の利用が期待されています。世界の不良土壌の多くは、「酸性土壌」と「アルカリ性土壌」で占められており、これらの土壌の問題点は、植物が根から必須栄養素を吸収できないことです。特にアルカリ性土壌では、土の中に鉄が溶けにくいため、植物は「鉄欠乏」になり、十分に育つことができません。

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この問題を解決するために重要なのが、岩手大学農学部の高城成一先生が発見した「ムギネ酸」の存在です。イネ科の植物は、土の中の鉄を吸収するためにムギネ酸類を分泌し、それによって鉄を溶かして吸収することができます。このムギネ酸類の働きを品種改良に生かすことができれば、植物が鉄を吸収する能力を身につけることが可能になります。
これまで、ムギネ酸類の合成や吸収に関する研究は、日本の研究者が中心となって進めてきました。その結果、イネ科植物の鉄吸収機構の全体像が明らかにされつつあります。最終的には、不良土壌で育つ植物を作ることが目標ですが、鉄の輸送経路やどのくらいの量を運べるのかについてさらに解明していくことで、不良土壌により適応した植物が育種できると考えています。地球環境科学研究室では、仮説と検証を繰り返しながら、一つ一つの実験と真摯に向き合うことを大切にしています。日々の研究の積み重ねが、 “Zero hunger”を目指すことにつながるのです。

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長坂 征治教授生命科学部 生物資源学科 地球環境科学研究室

  • 専門:イネ科植物の鉄吸収機構解明
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