川越市のかわごえ環境ネット理事長をはじめ、数多くの社会活動に携わる総合情報学科の小瀬博之教授。「パソコンの前より外にいるほうが多いですね」と笑うそのアクティブな姿から学生たちに伝えたいのは、目の前にあるリアルを感じ取る能力だという。社会で求められる「情報のスペシャリスト」とは、現実に立ち向かえるタフな目線を持った人材なのだ。

パソコンを消して外に出てみよう

2013060108_img_02

私の専門は環境や地域活性化、景観など。コンピュータ的な「総合情報学科」のイメージからは、ちょっと意外に思われるかもしれないですね。

「プログラミングを学びたい」「ゲームや映像を作ってみたい」など、この学科に興味を持つ動機はさまざまでしょう。しかし、この学科で育みたいのは、単にコンピュータを巧みに操れる能力だけではありません。大切なのはそのスキルを活用して問題を解決したり、人の暮らしに貢献したりといった、いわば「目的意識」を持つこと。私の専門分野も、そうした「目的」の一つなんです。

だからこそ「情報のスペシャリスト」をめざす学生には、コンピュータと向き合ってばかりでなく、もっともっと現実に興味を持ってもらいたい。そんな思いもあって、私の授業は教室の外で行うことも多いんですよ。

情報で大切なのはスキルより中身

学生たちにもよく話すのですが、今の時代、環境に取り組んでいない企業はありません。私の授業でも、企業とタイアップして屋上緑化に取り組んだことがありました。昨年夏はキャンパス内の壁にグリーンカーテンを育てました。光を遮る効果があり、エアコンを使わなくても部屋を涼しく保つグリーンカーテンは省エネにもなるし、環境への意識をビジュアルにアピールする効果もあります。

こうした環境や地域での取り組みを、世間に広くアピールするときに生きてくるのが、この学科で学ぶ「情報発信のスキル」というわけですね。

しかし、あらためて言いますが、情報発信で大切なのはスキルよりも「中身」です。学生たちには自分の手や足を動かして、充実した中身を作っていくところから学んでもらいたいと思っています。

現代社会はすべてのインフラ(基盤)が情報で動いているだけに、情報の技術を環境の面で生かす場は今後さらに増えていくでしょう。情報分野で環境について学べる大学はまだ少ないですから、この学科の卒業生たちの活躍に期待したいですね。

インターネットに飲み込まれるな

ここ数年は、3年生を中心に「地域活性化プロジェクト」にも力を入れています。商店街の衰退や住民の高齢化といった、日本中の至るところで起きている問題に、情報の技術がいかに貢献できるか。その答えは私もまだ見つかっていませんが、学生たちと一緒に自治体や地域のみなさんと話をしたり、イベントを開催したりして、この大きなテーマに取り組んでいます。

今の社会で私が気がかりに思っているのは、身近なコミュニケーションがどんどん減っていることです。インターネットで場所も時間も関係なくつながれるからなのか、逆に身の回りのことが見えなくなっている気がします。

しかし、社会に出てみなさんが取り組むのは、目の前にある「現実」なんです。インターネットを含む情報の技術はあくまでツール。それに飲み込まれるのではなく、うまく使いこなして「現実」に生かす。この学科で学んだ学生だったら、きっとそれができるようになると思うのです。

緑豊かなキャンパスや、江戸情緒が漂う川越の町、そして地域のみなさんが暮らす住宅街を目で見て、耳で聴いて、鼻でかいで。そこから感じるリアルな情報は、インターネットでは得られません。「小瀬の授業は足が疲れる」と学生は思っているかもしれないけれど、パソコンに向かう時間も多いだけに、リフレッシュにもなっているはずですよ。

2013060108_img_03

小瀬博之教授総合情報学部 総合情報学科 システム情報専攻

  • 専門:水・緑・熱環境デザイン、景観学、ICT活用と環境コミュニケーション・地域活性化

  • 掲載内容は、取材当時のものです