生育多様性共生研究プロジェクト

−「生きづらさ」を抱える人たちのために生命科学ができること−

様々な格差問題の背景にある性差、発達障害、ストレス性障害、精神疾患、老化などの生物学的基盤を解明することは、多様性を受け入れ、格差を解消するうえで有意義である。現在、東洋大学生体医工学研究センターをはじめとする学内組織、研究者が連携し、「誰一人取り残さない社会」や「多様な幸せを実現できる社会」の実現を目指して研究を進めている。

取材：2023年12月

生命科学分野で得られた知見を人文・社会学の現場で活かす

不平等や差別といった様々な格差問題から「生きづらさ」を抱える人たちが、社会の中で適切なサポートを得ることが難しい状況が生まれています。誰もがマイノリティになる可能性を持つ現代社会。だからこそ、そうした問題は他人事ではなく、生育多様性の共生社会を築くために解決すべき課題について、一人ひとりが考え、向き合っていくことが求められています。そこで、本研究プロジェクトでは「生育のdiversityを生むメカニズムの解明とwell-beingな社会の実現に向けた支援体制の構築」をテーマとし、生命科学分野で得られた知見を人文・社会学の現場である、保育や教育、療育の現場に活かしていくという協力体制のもとで、文理融合の学際領域を超えた研究を進めています。

生命科学分野では、性分化および性差を決定するメカニズムの研究およびモデル動物等を用いた神経精神疾患（神経発達障害、心的外傷後ストレス障害、自律神経障害、うつ病、認知症を含む）の脳内メカニズムの研究を推進し、保育、教育、療育の各現場で活用できる知見を集約します。また、人文・社会学分野では、幼児から高齢者までさまざまな年齢層を対象とした食事と健康に関する実態調査をはじめ、発達障害の子どもたちの感覚の過敏性や鈍感さが夢にどのように現れるのかを調査し、効果的な悪夢の治療について研究しています。

現在は講演会やセミナーなどで啓蒙活動を行っていますが、今後は情報発信のためのプラットフォームを整備していく予定です。本研究によって得られた成果を周知し、多様な幸せを実現できる社会の実現に貢献していきたいと考えています。

児島伸彦

東洋大学生命科学部教授。本研究プロジェクト代表者。
群馬大学大学院医学研究科（博士課程）修了。医学博士。コロンビア大学神経生物学行動科学研究センター客員研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て、2013年より東洋大学生命科学部生命科学科に教授として就任。専門は神経科学、神経化学・神経薬理学。こころの神経基盤であるシナプス可塑性の分子メカニズムの研究を行う。