プロジェクト参加者座談会

“人”の好循環、
“知”の好循環がもたらした、
若手研究者の成長

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  • 研究プロジェクト名:

    多階層的研究によるアスリートサポートから高齢者ヘルスサポート技術への展開
    ~社会実装に向けての研究組織連携の構築~

  • 重点研究課題:

    (3)

  • 研究主体:

    生体医工学研究センター

  • 研究代表者:

    加藤 和則 教授(健康スポーツ科学部栄養科学科)

  • 研究期間:

    2020年4月~2023年3月

研究プロジェクトについてはこちら

理工学部生体医工学科の加藤和則教授が統括する、重点研究推進プログラム「多階層的研究によるアスリートサポートから高齢者ヘルスサポート技術への展開~社会実装に向けての研究組織連携の構築~」は、2022年度が最終年度となる。

本プログラムでは、「科学的根拠に基づいたアスリートサポート技術の多階層的研究」、「暑熱ストレスの可視化研究と熱中症サポート法の開発」、「高齢者の心身の健康状態の解析とヘルスサポートシステムの開発」を3つの研究の柱とし、研究成果を社会実装することを最終目的としているが、同時に、若手研究員を育成し、“人”の好循環、“知”の好循環を図っていくことも狙いとしている。

プロジェクトに参加した二人の大学院生(松山実緒、片野亘)と、それぞれの指導教授(堀内城司、小柴和子)による座談会を実施し、プロジェクトで得た成果について語り合った。(文中敬称略)

取材:2022年7月

他分野の研究者と連携して視野が広がり、研究のアプローチが変わった

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加藤:松山さんは堀内先生の研究室で、片野さんには小柴先生の研究室でプロジェクトに貢献していただきましたが、このプロジェクトに応募した動機を教えてください。

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松山:私はずっと基礎医学的な研究をしてきましたが、他の研究者との横のつながりが少なく、自分の研究が世の中にどうつながっていくのか、未来が想像しづらかったんです。このプロジェクトには理系・文系の様々な分野の研究者が参画しているので、横のつながりができて、自分の視野が広がるのではという期待がありました。

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片野:僕も同じですね。僕は心臓の発生学という、社会実装からはかけ離れた分野が専門ですが、もっと社会実装という出口を視野に入れて研究をしたいという想いから参加しました。また、プロジェクトに参加することで、他分野の研究者たちと交流できるので、自分の成長につながると考えました。実際、他の研究者の研究活動について知るようになってから、自分の研究もアプローチの仕方が変わったなという実感があります。

加藤:堀内先生から見て、松山さんはどういう学生でしょうか。

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堀内:学部生の頃から指導していますが、とてもまじめな学生で、まず、実験テクニックが優れていて手術がとてもうまい。それだけでなく、自分で考えたり工夫したりして、どんどん研究を深めていく。非常に研究に向いているなと思っていました。

加藤:松山さんは、研究室の中でも中心的存在になって、後輩をうまく指導していますね。研究者としての素質があるだけでなく、人に教える指導力も長けていると思います。小柴先生から見た片野さんはどういう学生ですか。

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小柴:片野さんも大変熱心に研究に取り組んでいます。学部や修士の頃は、自分の興味を中心に研究を進めていましたが、最近は片野さん自身も述べていたように、もっと先の出口を見据えて研究を進めるようになったな、と変化を感じますね。研究室には学部生も10人いますが、片野さんは指導的立場となって研究をまとめてくれています。

後輩の指導を通じて、研究者として大きく成長

加藤:片野さんにとって、後輩を指導することはどのような意味がありますか。

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片野:一人で研究を進めていても限界があります。大きな研究プロジェクトを進めていくためには、人を巻き込んでいかなければならないし、熱意を持ったリーダーが必要だと実感しています。将来そういう存在になりたいという気持ちがあるので、それも意識しながら後輩と接しています。

加藤:頼もしいですね。順調に若手研究者として成長していることを、本当にうれしく思います。プロジェクトに参加してみて、どんな成果を感じていますか。

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松山:このプロジェクトで、異分野の研究者たちの研究内容や仕事の仕方を見ることができ、研究に対するとらえ方が大きく変わりました。以前の私は、自分の興味の赴くままに研究をすることしか考えていませんでした。しかし、社会実装を最終目標にするのであれば、研究費をいかにして獲得するか、そのためには自分の強みや自分の研究の売りをいかに社会にアピールするかまで考えなければならない。そういう姿勢を他の研究者の方々から学びました。

片野:僕も、以前は他の研究者と接する機会が少なかったのですが、このプロジェクトのおかげで、今までは関わりを持つことのなかった全く異なる分野の研究者や教授と話す機会ができて、視野が広がったということが一番大きいですね。

加藤:堀内先生、小柴先生、二人の成長をどんなふうに感じていますか?

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堀内:私が松山さんを一番評価しているのは、自分でものを考えて、失敗してもそこから解決策を見つけていくという姿勢です。また、研究者は自分の研究だけをしていればよいわけではなく、実験用具の発注や物品管理、研究費のマネージメント、さらには後輩の指導もしなければなりません。松山さんはこの2年間で、様々なタスクをバランスよくこなす力がついたと思います。

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小柴:片野さんが加わってくれたおかげで、私も研究分野が広がりました。私たちが取り組んでいる発生生物学という分野は、技術的な進歩が非常に早く、情報もどんどん細分化され深化しています。私ひとりではとてもキャッチアップしきれません。彼のような若手研究者がいてくれることで、大変戦力になっていますし、彼から教えられることもたくさんあります。

プロジェクトを通じて研究者としてのキャリアを拓く

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加藤:今年度で、本プロジェクトは一区切りとなります。もちろん研究はずっと継続していきますし、研究者間の横のつながりや若手の育成も継続していきますが、現時点でどのような成果が上がりつつありますか。

小柴:論文を投稿する寸前まできています。Sallという因子が、マウスの心臓の発生においてどのような機能を担っているのかを解明しようとしています。その結果、Sallが心筋の増殖を制御していることがわかり、先のことにはなりますが、将来的には心臓の再生にもつながる成果になると思います。

堀内:以前発表した論文の中で、精神的ストレス時の循環反応の脳内メカニズムについて研究し、脳内のネットワークの一部を解明しましたが、1つだけどうしてもわからないことがありました。そこだけずっと疑問のままだった。ところが、松山さんが行った実験で、その謎に対してようやく解明の輝く光が見えたのです。これは最終年度に向けての大きな成果です。現在、彼女が論文を執筆中です。

加藤:それは素晴らしい成果ですね。同時に、松山さん、片野さんが研究者として育っているという事実は論文一報以上に匹敵するほどの価値があると思います。今後がとても楽しみですが、二人は今後の進路をどのように考えていますか。

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松山:もともと研究者になるのが夢でした。今もそれは変わりませんが、以前と違うのは、ただ自分の研究をすることだけでなく、後進を育てることにも力を入れていきたい。自分の研究で成果を上げることも喜びですが、一生懸命見守ってきた後輩が成長する姿を見ることにも非常にやりがいを感じています。

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片野:現時点では、アカデミックの世界に残るか、企業の研究者として研究を続けるのか、決まっていません。しかし、いずれにせよ、海外で活躍できる研究者になりたいと思っています。その第一歩として、まず、海外留学することが目標ですね。

加藤:ぜひがんばってほしいですね。二人とも、今後必ずいろいろな挫折を味わうと思います。研究がうまくいかない、実験のスキルに限界を感じる、後輩の指導がうまくいかなくなるなど。すべての研究者と同様、困難に遭遇するのは間違いありません。それをいかに乗り超えるかです。自分の力で乗り越えることも大切ですが、指導してくれる先生方、先輩、後輩含めて、周囲の人の助けも借りながら、困難を乗り越え、研究者として成長していってほしいと願っています。

院生プロフィール

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松山 実緒

東洋大学理工学研究科生体医工学専攻博士後期課程3年、ニューロサイエンス研究室所属。
2018年に東洋大学理工学部生体医工学科を卒業後、2020年に東洋大学大学院理工学研究科生体医工学専攻にて修士号を取得。その後は東洋大学大学院理工学研究科生体医工学専攻博士後期課程に進学。現在は、急性心理ストレスに起因する交感神経性循環反応の神経ネットワークに関する研究を行っている。助成金・研究費の獲得実績として、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(今回参加している本プロジェクト)がある。

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片野 亘

東洋大学大学院生命科学研究科博士課程3年、動物発生システム研究室所属。
構造が複雑な臓器である心臓が発生過程でどのように形作られていくのかに興味をもち、心臓発生のメカニズムについて研究を行っている。助成金・研究費の獲得実績として、これまで笹川科学研究助成、東洋大学井上円了記念研究助成、東洋大学校友会学生研究奨励基金に採択。また、Weinstein Cardiovascular Development and Regeneration Conference 2018、2018年度東洋大学3キャンパス合同研究交流会で優秀ポスター賞の受賞歴がある。

指導教授プロフィール

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堀内 城司

東洋大学理工学部生体医工学科教授。
東邦大学卒業。博士(医学)。山梨医科大学(現山梨大学・医学部)助手,防衛医科大学校・医学部・講師を経て,2001年よりオーストラリア・シドニー大学・医学部・主任研究員。2009年より現職。専門は呼吸・循環生理学,自律神経科学など。特に,身体的および精神的ストレス時の自律神経反応の脳内メカニズムの解明に生理・薬理学的手法と組織学的手法を組み合わせて挑んでいる。

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小柴 和子

東洋大学生命科学部応用生物科学科教授。
東北大学理学部卒業、東北大学大学院理学研究科生物学専攻修了、博士(理学)。ERATO吉里再生機構プロジェクト、徳島大学、奈良先端科学技術大学院大学、カナダ・トロントThe Hospital for Sick Children、UCSF・Gladstone研究所でポスドクを行い、東京工業大学特別研究員、東京大学講師を経て、2016年に東洋大学に着任し、2017年より現職。マウス、ゼブラフィッシュを用いた心臓発生研究を行いながら、アホロートルを用いた四肢再生研究にも取り組んでいる。

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加藤 和則

東洋大学健康スポーツ科学部栄養科学科教授、本研究プロジェクト代表者。
東北大学卒業。東北大学大学院薬学研究科修士課程、博士課程修了。薬学博士。カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部研究員、国立がんセンター研究所薬効試験部室長、順天堂大学医学部准教授などを経て、2011年より東洋大学理工学部教授に就任。2023年より東洋大学健康スポーツ科学部教授。東洋大学大学院健康スポーツ科学研究科長。専門は免疫学・検査医学・機能性食品学など。