インドが起源とされるジプシー/ロマは、ヨーロッパを中心に人口が集中し、世界中に散在して移動生活をするヨーロッパ最大の少数民族です。フランスでは、下位集団名である「ロマ」ではなく、「ジプシー」を総称として使用し、現在では定住している人たちが多いなかで、フランスのジプシーは「キャラヴァン(キャンピング・トレーラー)」で季節ごとに移動生活をしている人が多いのが特徴です。「ノマド」とは、移動しながら生活する人をいい、少数の集団で移動をして、自然資源を狩猟採集しながら暮らす「ノマディズム」と呼ばれる生活様式をとっています。ノマドとして生きることには多くの魅力があり、「ノマドの知恵」の一つに、「群れすぎない」ことがあります。ノマド的な共同体においては、人間関係のきしみを、私たちの定住民の社会にあるような権力やルールではなく、「動くこと」で解決します。二つ目に、多様な出自の人が離合集散しながら共同体を構成しているため、彼らは「である」こと(同一性)にこだわり、「私たち」の境界を固定的に定めるのではなく、変化可能な状態を緩やかに保っています。動きの中で環境に寄り添いながら、自分の居場所を組み立てる知恵に支えられた「ノマディズム」という生き方が、グローバル化し、不確実な世界を生きる私たち定住民にとっても、示唆的なものであるはずです。人類学の面白さとは、他者の文化や社会を理解することで、私たちの文化や社会の当たり前を問い直し、別様でもありうる生き方の可能性を考えていくことにあります。「旅の人びと」と呼ばれるフランスのジプシーの姿から、どのような生き方の可能性が見えてくるでしょうか。

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左地 亮子准教授社会学部 国際社会学科

  • 専門:文化人類学、ジプシー/ロマ研究
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