中国経済は、改革開放以降1980年代から約30年間にわたって10%近い成長率を維持してきましたが、2010年を境に6~7%台に低下し、減速局面に入ってきています。今後高成長に戻ることは望めず、5~6%の中高度の成長を維持していくかが重要な課題となります。中国経済はこの30年間の高度成長に伴い、1人当たりのGDPは大幅に上昇していますが、先進国には達しておらず、「中所得国」に分類されます。このような現状に対し、開発経済学の分野においては、「中所得の罠」に陥るのではないかという見方もあります。これは、途上国がある時期において、中所得の段階で経済成長が止まってしまうことを指します。中国は現在、成長率が低下することに加え、所得格差が拡大し、労働力不足の局面に入ってきています。「中所得の罠」に陥るのを防ぐためにはまず、これまでの投資主導型の経済成長から、技術進歩を中心とした経済成長に転換する必要があります。次に、輸出構造を多様化し、付加価値の高い製品を海外に輸出することで、成長を維持することができます。そして、都市化をさらに推進し、格差を縮小して中間層を育成していくことが重要です。このような産業構造の発展と都市化の進展により、大きな国内消費市場を形成することができます。内陸部などでは約1億5千万以上の余剰労働力があり、人材を育成して、労働力の不足を補うこともできます。このように、中国経済に新しい成長エンジンが出てくることによって、中国は「中所得の罠」をうまく乗り越えることができるのではないかと考えられるのです。

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郝 仁平教授経済学部 国際経済学科

  • 専門:地域研究、経済学、理論経済学
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