人口減少が進む日本では、地方都市を活性化させるために地域の価値を高めていく必要があります。その重要な方向性を示すのが、2000年代に発表された「創造都市」という概念です。例えば、バルセロナ、シドニー、シアトルなどは、東京ほど人口は多くありませんが、世界中から継続的に観光客が訪れるなど、まち全体に活気があります。これらの都市の共通点は、芸術や文化が持つ力をまちづくりに生かしていることです。現在、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)では、72カ国180都市を創造都市と認定し、その中には日本の地方都市もいくつか登録されています。なかでも注目されているのが、伝統工芸の文化を世界に発信する金沢です。金沢は、2004年に『金沢21世紀美術館』が開館したことを契機に、観光客の数が増え続けています。しかし、観光客の数が予想以上に増えすぎたことで問題点も見えてきました。例えば「金沢市民の台所」と呼ばれてきた近江町市場が、大衆化によって店の扱う商品のレベルが低下したり、地元産以外の魚が販売されたりするなど、逆に地域の価値を下げてしまったのです。そこで新たに「クリエイティブツーリズム」という考え方が取り入れられるようになりました。これは、訪れた人が地元の人々と触れ合いながら、その土地に根差した本物の文化を体験する旅を意味します。金沢クリエイティブツーリズムでは、「オープンスタジオデー」「アトリエ・建築訪問」「アートコンシェルジュ」の事業を主体に、その土地に住む伝統工芸作家たちと直接触れ合うさまざまな試みを実践中です。その結果、また来たいというリピーターの増加につながっています。これからの観光まちづくりには、文化を継承しながら、繰り返し来訪したくなる価値をどのように創造していくかという視点が求められるのです。

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佐野 浩祥教授国際観光学部 国際観光学科

  • 専門:都市計画 観光まちづくり
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