WHO(世界保健機関)のマークにある蛇の杖は、病気を治したり死んだ人を生き返らせたりする医術の神、古代ギリシャ神話のアクレピウスの杖を表しています。また、今のように、レントゲンやMRIといった機器がなかった時代は、医師や薬剤師に代わる宗教的職能者などがいて、占いやおまじない、神様や祖先、動物の精霊と交信して言葉を伝えるなど、さまざまな文化によって健康が判断されていました。ほかにも、例えば鍼灸治療は、痛みが治るメカニズムが解明されていないうえ、鍼を刺す場所は、経絡と呼ばれる体の気の通り道という、目に見えない、人体を解剖しても出てこない場所ですが、あると想定されて描かれている中国医術です。現代医療の整った日本でも、これが医療文化として存在しています。このように、健康と文化は古くから深くかかわっているのです。伝統的な医術や健康法を科学的に証明することや、神社で家族の健康を願って祈ることと病気が治ることの因果関係を証明することは難しいことですが、文化に優劣はなく、違いはあっても対等で、ほかの文化を評価することはできないとする“文化相対主義”の考え方であれば、他を切り捨てることなく尊重することができます。熱が出た人に温かいものを食べさせなければ、という地域と、いや、冷たいものを飲ませて体温を下げようという地域のどちらもその地域の文化なのです。健康は文化であり多様です。こうしたことを知り、自分とは異なる他者の文化や他者そのものを理解するセンスを身につけてほしいものです。

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木内 明准教授ライフデザイン学部 健康スポーツ学科

  • 専門:気功や養生法に関する人類学
  • 掲載内容は、取材当時のものです