私たちは、大気汚染物質、人工物・天然物に汚染された飲料水、残留農薬や病原微生物の混入した作物、海洋汚染で有害重金属を取り入れた魚介類など、さまざまな「環境毒性化学物質」にさらされています。人工物の毒で最も強い “ダイオキシン”は、死に至る毒性があり、他にも免疫機能の抑制や、皮膚病変、肝障害、発癌、催奇形性などを起こします。では、こうした激しい毒が発生する仕組みとは、どのようなものでしょうか。私たちの体は、ビタミンやホルモンといった、内因性生理活性物質が標的生体内分子と結合して生体機能の調節をしています。生理活性物質の代わりに容量を守って投与される、安全な医薬品と違い、毒性物質は標的生体内分子を介して毒性を示し、無秩序に人体の機能を狂わせます。ダイオキシンの標的生体内分子である、ダイオキシン受容体AhRは、あらかじめ細胞に用意されていて、ダイオキシンと結合すると核に移動し、遺伝子に影響します。そこで、受け手であるAhRをあらかじめ取り除いてしまうと、奇形などの毒性は出なくなりますが、盲腸にがんを引き起こす、AhRがない動物を繁殖させようとしてもおなかの中で胎児が死亡してしまう現象が起こるなど、生理的に重要な役割があるらしい、ということが解明されました。毒性メカニズムを研究することは、未知の生命現象の解明に繋がり、新薬の開発に至ることもあるのです。

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椎崎 一宏教授生命科学部 生命科学科 細胞分子毒性研究室

  • 専門:核内受容性を介した化学物質の生体影響
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