ヒンドゥー教や仏教などの伝統宗教文化は、地域にもともとあった基層文化と融合し、アジア各地域独自の宗教文化として展開されていきました。インドで生まれたヒンドゥー教は、10世紀末、バリ島に伝わりました。インドネシアには世界最多のイスラーム教徒が住んでいますが、バリ島に限ると、その9割がヒンドゥー教徒です。
バリ・ヒンドゥー教はインドのヒンドゥー教とは違う特色があります。儀礼を大切にしていて、観光ツアーが組まれるほど派手に行われています。儀礼体系はインドと同様、5つに分類されますが、その対象や時期はバリ独特のものです。先生が現地で見てきた、生後3カ月のお祝いとされる通過儀礼「トゥルブラニン」は、乳児が初めて固形食を食べる「お食い初め」、初めて大地に足をつける「神々の世界から人間界に降り立つ」という2つの重要な儀礼です。また、家庭内寺院での礼拝、供物の多様性、そして祖先の霊が神々と同等の地位であることなどもバリ独特のものであり、これらはバリの基層文化と関わっているのです。
文化を知るうえで、その地域の基層文化、その上に乗る伝統宗教文化、さらに両者の関係性の理解が重要です。現地に行って細かく考えながら観察し、これらを探っていくことが大切なのです。

pf_yamaguchi.jpg

山口 しのぶ教授文学部 東洋思想文化学科

  • 専門:哲学・印度哲学、仏教学

  • 掲載内容は、取材当時のものです