工学分野の学びの対象は幅広い。自動車から鉄道、家電からロボット、そしてロケットまで、私たちの身の回りにはさまざまな機械が存在する。宇宙へのあこがれからロケット開発を夢見てきたという機械工学科の藤松信義准教授は、ロケットが飛ぶしくみを研究し、学生たちと小型ロケットの打ち上げに挑戦しようと考えている。

宇宙は遠い夢ではありません

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もし「宇宙に関わる仕事をしたい」と思ったら、どうしますか。小惑星探査機「はやぶさ」の帰還や、日本人初の宇宙での長期滞在を成功させた宇宙飛行士・若田光一さんの活躍など、宇宙の話題は胸が躍るものばかりですよね。宇宙は、決して遠いあこがれの世界ではありません。必要な知識を身につけ、熱意をもって挑戦すれば、近づくことはできるのです。

宇宙に関する仕事はいろいろありますが、子どもの頃から工作が大好きだった私は、「ロケットを作りたい」という夢をずっと抱き続けてきました。そのためには、何を勉強すればいいのか。一つひとつ考え、調べ、一貫して取り組んできました。

もちろん、ロケットの開発は簡単なことではありません。まずは次のような学問を学んで知識を得ることが必要でしょう。それは、ロケットのボディの強度を調べる「材料力学」、熱エネルギーと推力を調べる「熱力学」、空気抵抗を調べる「流体力学」、ロケットの運動を調べる「機械力学」、ロケットの状態を知る「計測工学」、ロケットを目的の場所へ運ぶ「制御工学」――という6つの学問です。どれもロケット開発に欠かせない知識です。高校で学ぶ数学、物理学、化学、力学をきちんと踏まえれば、本学の機械工学科ではこれらのすべてを学ぶことができます。

研究室でロケット打ち上げを

ロケット開発に必要な学問のなかでも、私の「航空宇宙システム研究室」では、流体力学に関する研究に取り組んでいます。

流体力学とは、物体が空気の流れや水の流れを受けた時に、どれくらいの力がどのようにかかるのか、力の流れのメカニズムを解明する学問です。飛行機は、翼の上の部分と下の部分で、流れる空気の速度が異なることで揚力が発生して飛ぶことができますよね。自動車や新幹線などが、より速く前に進むためには、どのような形で空気の流れを受ければいいのかを研究しています。

研究室では、繰り返し打ち上げることのできる「再使用型宇宙機」という打ち上げ機や、小型飛行体の研究にも取り組んでいます。今後は、研究成果を集約した小型ロケットの打ち上げ実験にも挑戦します。宇宙機の再使用化により、さまざまな技術革新がもたらされるはずです。

生活に生かされる工学の知識

ロケットの開発のほかにも、工学で学ぶ知識は生活のあらゆる場で生かされています。ダイソンが開発した、羽根のない扇風機を見たことがありますか。羽根のない輪から強い風が送り出される、不思議な扇風機です。実は、台の部分から吸引した空気を、輪の隙間から出すことによって、風を送り出しているのです。あの扇風機は、流体力学の「エジェクタ効果」を応用した技術によって作られたものです。

「エジェクタ効果」とは、噴き出した空気や水が、そのものが持つ粘性によって周りの空気や水を巻き込む現象のこと。たとえばロウソクの火を吹き消す時、口をすぼめて息を吹き出しますね。普通に口を開けて息を吹き出すより、口をすぼめて吹き出すほうが、風量が増えるからです。狭い吹き出し口から出すと風量が増えるのは、風が噴き出る勢いが増して、周りの空気を巻き込むからです。羽根なし扇風機も、吸引した空気を吐き出す部分の形状と傾斜を工夫し、周りの空気を巻き込むことで、吸引した空気の15〜20倍相当の空気の流れを作り出しているのです。

私は自分の夢である「ロケット開発」のために工学を学び、今でも研究を続けています。工学の対象分野は幅広いものです。機械工学科にはきっと、みなさんの夢を実現させる学びがあるはずですよ。

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藤松信義准教授理工学部 機械工学科

  • 専門:航空宇宙工学

  • 掲載内容は、取材当時のものです