日本の地方都市が抱える問題は、少子高齢化、大都市への人口集中、財政難などです。問題解決の鍵を握るのは、定住人口(移住者)や交流人口(観光客)を増やすことですが、そのためには地域の強みを生かした街のアイデンティティを築く必要があります。なぜなら他にはない独自性がその街の魅力となり、移住者や観光客を集める原動力になるからです。通常のまちづくりの方法は、住民や関係者を募り、ワークショップなどで都市の将来像を議論し、言葉によって意見を集約して具体策を生み出します。しかしこの方法では、実際の施策に結実することはそれほど多くありません。そこで新しいまちづくりの方法として、「都市の将来像を共有する媒体としてアートを制作する」ことを提案します。その実践例が、佐賀県有田町で取り組んでいるFUTURE ARITA projectです。有田町の都市計画やまちづくりに関わる住民や関係者、学生によるワークショップで都市の将来像を議論し、招聘したアーティストが、その議論の結果を基に「未来の有田のシナリオ」をアートで表現します。今回制作されたアート作品は『江越邸』に常設展示され、さまざまな人々に鑑賞してもらいました。その方たちへアンケートを実施したところ、「未来の有田に対するイメージが膨らみましたか?」の質問に8割以上が「とても膨らんだ」または「やや膨らんだ」と回答。その結果から、言葉だけでは共有しにくい都市の将来像が、アートという形をとることによってイメージしやすくなり、より多くの人に共有されやすくなることが分かりました。その他にも、今回の試みを通して「まちづくりについての議論が活性化したこと」や「具体的なまちづくりの動きにつながること」が明らかになりました。アートを介したまちづくりの手法は、一般的な地域芸術祭とは異なり、今後まちづくりとアートの幸福な関係を生み出す新しい方法論となり得るでしょう。

pf-taguchi.jpg

田口 陽子准教授理工学部 建築学科

  • 専門:都市・地域計画、まちづくり、公共空間デザイン、地域施設計画
  • 掲載内容は、取材当時のものです