昨今、禁止薬物の乱用が社会問題化しています。こうした薬物を感度良く測定し、使用の抑制につなげるために、どのような手法を開発すればよいでしょうか。本来「薬」は有機物であるため水に溶けにくく、人間の体とは親和性が低いものです。しかし、人間の体と極めて親和性の高い、グルクロン酸という分子を結合させることで、体内を自由に動き回り、患部に薬が届きます。体内に入った薬物は、次第に血液や尿中に放出されますが、親水性も疎水性も持ち合わせた状態の薬を簡単に抽出することはできません。酵素を用いてグルクロン酸を切り離す方法もありますが、危険ドラッグや禁止薬物の使用を裏付けるためには、薬物だけではなく、体内を通った証拠として代謝物も同時に測定する必要があります。そこで考えられたのが、分子をイオン化させ、分子一個のレベルから測定する「マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析法」です。この手法では、分子の複合体のマトリクスをつくり、光を当てて、間接的に試料をイオン化させます。分子の集合体を工夫することにより、ある特定の分子だけを測ることが可能となり、薬物だけでなく、その代謝物まで感度良く測定できることが分かりました。ここで重要なのは「尿一滴から、なんの前処理もせずそのまま測った結果である」ということです。このように機能性のあるマトリクスを工夫して作り出すことによって、現代社会が抱える諸問題を解決するような測定方法を提供していきたいと考えています。

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藤野 竜也教授理工学部 応用化学科 分子分光研究室

  • 専門:レーザー分光学、質量分析
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