フランスの哲学者、ミシェル・セールが1990年に「自然契約」という概念を提示しました。当時は、湾岸戦争により環境が破壊され、ペルシア湾に流出した重油にまみれた水鳥の姿がTVで流れ、衝撃を与えていました。セールはこのような背景から、ルソーの社会契約論をベースに、環境、暴力、人間の戦争と自然がどのように関わっているのかを説いたのです。社会契約論とは、「人はもともと自然状態であり、だいたい同じものを望むため、闘争をし、奪い合う。すると、結果は仲間の多い多数派が勝つようになる。また、別の前提として、そのまま闘争を続けるとみな死んでしまうため、強いものに権利(自然権)を委ね、代わりに守ってもらおうとする」という考え方です。しかし、セールは、「人間同士の戦いに夢中になるあまり、自然によって命を奪われようとしていることに気がついていないのではないか」と指摘します。そして1995年になると、環境の問題について大きく取り上げられるようになり、地球に大きな影響を与える人間と自然は、関わりなくして成り立たないという考え方から、ブリュノ・ラトゥールたちによって、「ガイア」という概念が提唱されました。汚染水が海に流れた場合、希釈されて安全だと主張する学者と、より汚染がひどくなるとする学者、また政治家の主張などもあって意見はバラバラですが、“汚染水”を中心に関係性を持っています。ガイア理論は、人間と自然、地球を全体として捉え、かつ部分として、それぞれとの関係性を考えることができる新しい概念です。哲学や人文学のこうした考え方を用いて、社会的な問題においても、自然科学と共に考えていくべきだと考えています。

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清水 高志教授総合情報学部 総合情報学科

  • 専門:哲学、情報創造論、社会思想史
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