みなさんはギリシアと聞くと、アクロポリス神殿や哲学者のソクラテスなどを思い浮かべるかもしれません。しかし、そのような古代ギリシアと現代ギリシアは同じ「ギリシア」なのでしょうか。古代ギリシアは、東地中海全域に立ち並ぶ都市国家ポリスで構成され、国家同士が覇権を争って対立していました。最終的に現代のギリシアの領土が確定したのは、第二次世界大戦以降のことです。東ローマ帝国、オスマン帝国と支配者が変わる中、「ヘレネス」と呼ばれた古代ギリシア人は、自分たちをローマ帝国の臣民で、かつ東方正教キリスト教徒である「ロメイ」というアイデンティティを持つローマ人であると考え、ヘレネスと断絶します。その後18世紀になると、古代ギリシアを崇拝する文化的風潮を受けて、西ヨーロッパからやってきた多くの学者や旅行者によって、ロメイは「あなたたちの先祖は、偉大なるヘレネスなのだ」と教え込まれます。こうして歴史を学んだロメイのアイデンティティは、自分たちの先祖は、古代に偉大な文明を作り上げ、歴史を残したギリシア人として変遷し、歴史が再び結びついたのです。このように、古代ギリシアと現代ギリシアは、地理的、政治的にも、ギリシア人としても、単純に同じものとは言えません。しかし、そこに住む人々が、ギリシア語を話し続け、ギリシア語に基づく文化を受け継いできたからこそ、現在があります。民族意識は生まれながらにして持ち合わせるのではなく、歴史や教育を通じて作られるものなのです。

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村田 奈々子教授文学部 史学科

  • 専門:西洋近現代史
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