現在、体を切らず痛みを伴わない「重粒子線がん治療」という治療方法が注目されています。これは、「重粒子線」というあらゆる物質の元となる原子を含む、目に見えない非常に小さな「量子」を体の外から照射し、体の奥深くにあるがん細胞を死滅させる放射線治療の一種です。重粒子線には、ある一定の深さまでたどり着いたとき急激にダメージを与える力が強くなる特性があります。この治療法では、重粒子線の特性を利用し、体の奥にたどり着くまでの体の正常な細胞まで壊すことなく、がん細胞だけにダメージを与えます。重粒子線は光のような速さで人体に入射し、最初は小さな粒子状で、他と衝突せず進むため正常な細胞を傷つけることはありませんが、体の奥深くに進むにつれてスピードが落ちてくると、広範囲にわたる波のように動き、がん細胞の原子とぶつかります。エネルギー量によって深さを調節し、その結果、効果的にがん細胞を死滅させることができるのです。
医療で活躍する量子はほかにもたくさんあります。エックス線はレントゲン撮影やCTに、原子核はMRIに、中性子や陽子は重粒子線と同様、がん治療に応用されています。ただ、より殺傷力の高い治療法のためには、装置の規模も治療費も大きくなってしまうのが現在の課題です。重粒子線治療を普及させて多くの人がこの治療の恩恵を受けられるよう、装置の小型化が望まれます。

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本橋 健次教授生命科学部 生体医工学科 量子医工学研究室

  • 専門:原子分子物理学、表面物理学
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