これまでの建築学科の学びとは、何もない敷地に新たに建物を作ることでしたが、「空き家問題」が深刻化している近年では、すでに作られ、現在は使われていない建物をいかに活用するか、ということを考えることが求められるようになってきました。東洋大学理工学部建築学科のキャンパスがある埼玉県川越市は、蔵造りの町並みや古くからの建物が建ち並ぶ、全国的にも有名なエリアです。建築・都市空間デザイン研究室(日色研究室)では、2016年より半年間をかけて「川越の町の一角にある長屋の一室を実際に『生きた教材』として改修する」というプロジェクトに取り組んできました。

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改修にあたっては、建築学科卒業生で若手建築家の木元洋佑氏(木元洋佑建築設計室)の協力を得て、研究室との共同プロジェクトと位置づけました。学生たちは授業で新しい建物に関することは学んでいても、築後100年も経過しているような古い建物に触れる機会はなかなかありません。当然ながら設計図面も残っておらず、実際に手を動かしてみないと分からないことばかりです。例えば、改修前の建物の1階は真っ暗で光が当たらなかったのですが、吹き抜けを作って2階から1階に光が届くように改修しました。ものづくりの楽しさや原点とは、改修を進めていく過程において、新しい発見があったり、作業を進めるなかで生じた課題に対してメンバーで議論をしながら考えたり、といったところにあるものです。時には、その場で方針を変更しながら進めることもあります。そこには、新しい建物を建てていく時とは異なる面白さがあります。
現代の建物は、永久的にメンテナンスを必要としない「メンテナンスフリー」が重要視されていますが、昔の建物はむしろ、メンテナンスをしていくことが重要視されていています。障子を張り替え、長く維持していくために手を入れていくことで、建物への愛着も沸くものです。現代における建築には、何でも壊しては新たに造るのではなく、すでにある建物に対して、自分たちが何をしていくのかを考え、先人から学び、自分たちで見つけ出していくことが求められています。建築に対する新しいあり方が生まれてくる時代なのです。

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日色 真帆教授理工学部 建築学科 建築・都市空間デザイン研究室

  • 専門:社会基盤(土木・建築・防災)、建築計画、都市計画
  • 掲載内容は、取材当時のものです