生命を維持するうえで必要な5大栄養素のうち、亜鉛や鉄などのミネラルは不足するとさまざまな体調不良を起こします。私たちは体内でミネラルをつくることができず、食事を通じて摂取する必要があります。先進国では不足しがちな栄養素を、サプリメントを摂取して補給することができますが、穀物を主なミネラルの摂取源としている途上国では、健康に深刻な影響が生じることが危惧されています。また、今後、大気中の二酸化炭素濃度が上昇し続けていくことにより、将来の二酸化炭素濃度条件下では、穀物に含まれる亜鉛や鉄などのミネラル含量が低下することが予測されています。現在でさえもミネラルの欠乏が課題となっているなか、穀物のミネラル含量が低下することで、穀物をミネラル摂取源とする途上国では、さらなる栄養問題の深刻化が懸念されています。

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こうした「世界の栄養問題解決」のために、植物生理学研究室では新しい品種のイネの開発と実用性の検証に取り組んでいます。イネに含まれる亜鉛や鉄などの含量を増やすためには、亜鉛や鉄の吸収を妨げるフィチン酸の含量を減らすことが必要です。そこで、世界中のさまざまなイネの遺伝子を調べ、フィチン酸の量を制御する遺伝子を突き止めようとしています。その遺伝子の情報を利用すれば、従来の育種の方法で新しい品種をつくり出すことができるからです。

何不自由なく豊かに暮らす先進国の私たちが、栄養状態のよくない国の人たちのためにできること、すべきことがある。植物生理学研究室が日夜取り組んでいるのは、「世界の栄養問題解決」につながる研究なのです。

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廣津 直樹教授生命科学部 生物資源学科 植物生理学研究室

  • 専門:植物の環境適応力を生かしたイネ新品種の育成
  • 掲載内容は、取材当時のものです