身の回りにある制度に着目すれば、社会の実像や課題が見えてくる。制度の下で人はどのような行動をするのか。制度はどのようにつくられ、機能しているのか。どうしたらより良い制度をつくれるのか。「経済学とは役立つ学問」だと語る総合政策学科の加賀見一彰教授は、ミクロ経済学を利用して「制度」を分析している。

社会にあるさまざまな制度

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私たちが生活している社会には、さまざまな「制度」があります。たとえば、学校(教育)、企業、社会保障、法、マナーなどです。これらは特に意識することもなく当然のように存在していますが、実はそれぞれに特別な存在のものです。日本を一歩出れば、国・地域ごとに異なる制度があることに気がつきます。みなさんが今、当たり前のように使っているSNSやLINEだって、つい最近までは存在しませんでした。5年後には違う制度が登場しているかもしれません。

そして、「制度」をきちんと理解しなければ、現実社会を深く理解し、適切に改善することは難しいのです。「制度」の下で人々がどのように結びつき、どのように行動して何が生まれるのか。実際にどのように制度がつくられ、どう機能しているのか。どうしたらより良い制度をつくれるのか。こうしたことをしっかりと検討する必要があります。そこで、私は、現実社会を分析するツールとして確立されているミクロ経済学を利用して「制度」を分析することを研究テーマとしています。

制度に気づき、理解し、行動する

この分野の学びは、「制度」の存在そのものに「気づく」ことが出発点となります。なぜなら、多くの人々は「制度」についてほとんど意識すらしていないからです。つぎに、「制度」の構造や機能、成果を分析し、理解を深めていきます。ここでは、「制度」の形式的・建前的な内容ではなく、「制度」が人々の活動や関係にどのような影響を与えるのかに着目します。その結果として、現実の「制度」が適切に機能しているのか、どうすれば改善できるのかが見えてきます。そして、「制度」についての理解が深まれば、自分自身がどのように行動するべきかを具体的に考えることができるようになります。

「制度」について考えるための手法である経済学についても説明しておきましょう。経済学と聞くと、「難しそう」「非現実的でつまらなさそう」だと思う人が多いようですが、学びを深めるうちに、きわめて現実的で役立つ学問であることがわかるはずです。ただし、高校までの勉強や他の学問とは性質が違うので、最初は戸惑ってしまう人が多いようです。たとえば、法学は法を対象とし、経営学は企業・経営を対象とする学問として理解できます。しかし、経済学の対象ははっきりしません。じつは、経済学とは、社会について考えるための手法なのです。これが経済学の特徴的な――そして理解しにくい――性質だといってよいでしょう。

このような学びをすることで、みなさんは物事を単に表面的な事象だけでとらえずに、なぜ、その事象が起こったのかを考え、その背景には何があるのかを探ることができるようになるでしょう。現実社会の物事を多面的に掘り下げて考えられる観点が身につくのです。その意味で経済学は役立つ学問だと言えるのです。

問題意識を持ち、主体的に行動できる人に

私の研究テーマは、学科の教育とも密接に結びついています。総合政策学科がめざすのは、社会への問題意識を持ち、主体的に行動できる人材の育成です。このために、「制度」に着目した経済学の考え方が反映されています。そこで、この学科のカリキュラムを簡単に紹介しましょう。

1年次はまず、考えるための手法である経済学の基礎を学ぶと同時に、現実社会に関する問題意識を持つきっかけをつくります。具体的には、多数のゲスト講師も含めて毎回異なる担当者が、現実社会の多様なテーマを解説・議論する講義が用意されています。2年次は、より高度な経済学を身につけ、専門科目を通じて知識の幅を広げ、必修のゼミナールを通じて主体的に考える能力を強化します。3年次からは専門ゼミを通じて、個々の興味のあるテーマについて掘り下げて研究し、4年次には卒業論文か政策提言のいずれかを選択して、自分の「考えたこと」をまとめます。政策提言は社会の特定の問題について焦点を絞って、問題の背景を考察したうえで、望ましい対応策を立案し、さらには実施計画を提示します。これらの一連の学習を通じて、現実社会への鋭い問題意識、緻密な分析能力、主体的な思考・行動能力を身につけることができるようになっています。

4年間を通じて意欲的に学び、世の中を変えていきたいという強い意志を持って行動できる力を身につけた学生たちは、社会でも引く手あまたです。実際に、総合政策学科は、全学のなかでも就職率が高く、卒業生たちは幅広い分野で活躍しています。総合政策学科における「学び」を通じて、卒業生達が現実社会が求める能力をしっかりと身につけていることの証拠だといってよいでしょう。

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加賀見一彰教授経済学部 総合政策学科長

  • 専門:応用ミクロ経済学、法と経済学

  • 掲載内容は、取材当時のものです