インドの古典を読み解くにはサンスクリット語の習得が欠かせない。しかし「難しくて、私もいまだスラスラ読めないんですよ」と沼田一郎准教授は笑う。仏教用語の多くはサンスクリット語が由来な上に、「旦那」「奈落」など日常に溶け込んでいる言葉も多く、文化・宗教的に日本と深いかかわりを持つ。インドの古典を学ぶことで得られるものとは。

インドの古典を学ぶ意味とは

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私が専門としている「インド学」は、古典の研究が中心です。時代としては紀元前10世紀~紀元前後。授業では、インドの哲学や宗教、文化、社会などの基本から学び、インドについて関心を持ってもらうことから始めています。

インドの古典を学んで、将来、どんな役に立つのだろうかと疑問に思う人もいることでしょう。では今現在、世界経済において重要な国を挙げるとしたら、あなたはどの国の名を挙げるでしょうか。アメリカ?それとも中国でしょうか。

インドの人口は12億人を超え、中国に次いで世界第2位です。また若年層人口が多く、人口ピラミッドは理想的な三角形を描いています。高齢化社会に突入し、若い人が少ない日本とは対照的です。

人口は増加の一途。経済成長率も高く、インドには世界中から人とお金が流れてきています。その大きな市場に進出したいと考えている経営者はたくさんいることでしょう。しかし、インドに進出したくても、行ってくれる社員がいなくて困っているという話を耳にします。せっかくの右肩上がりの市場を、指をくわえて見ているだけというのは何とももったいない話ですね。

現代人のベースは古典にあり

インドにも長い歴史があります。インド人の持っているメンタリティや考え方の基礎には、やはりインドの古典があります。

私たちが日本の古い時代のことを小中学校で習い、文化や歴史の流れを何となく知っているように、インドでも古い時代の文化や哲学が、現在の生活や行動様式に反映されています。そこを深く知っている日本人と知らない日本人では、どちらが現地の人に受け入れられやすいでしょうか。

単純にインドに観光に行ったことがあるという学生よりも、インド文化について正確な知識を持ってインドに行ったことがあるという学生の方が、インド市場を攻める人材としては強いと言えます。

ですから、この先、間違いなく世界経済の中心となるであろうインドについて、学ばない手はないと思うのです。

恐れることなく飛び出せる国際人に

私がインドに興味を持ったのは高校生のころでした。倫理の授業で仏教に興味を持ち、インド哲学を学べる大学を選んだことが、この道に入るきっかけとなったのです。

現在、私の授業を受ける学生たちは、基本的にインドが好きです。映画や音楽、服装、食べ物、美術など、さまざまな分野に興味を持ち、卒業論文でも多様なテーマに挑戦しています。たとえばインドの競馬の歴史を調べたり、インド政府の文化政策とインド映画との関連性を調べたり。なかには、マンダラについて興味を持ち、刺繍でマンダラを完成させた学生もいました。

東洋思想文化学科ではインドのみならず、アジア圏のさまざまな思想に触れることができます。また、語学教育にも力を入れており、英語はもちろん、中国語やヒンディー語など、実用的な言語を学ぶこともできるのです。さらにヨーガや座禅、写経などの実技講義、そして海外文化研修など、体験型の科目もたくさん設置されています。

経済成長著しいアジア圏の、その表面だけでなく、深層まで突っ込んで学び、恐れることなく世界へ飛び出し、国際社会で活躍できる人材となってくれることを期待しています。

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沼田一郎教授イブニングコース 文学部 東洋思想文化学科

  • 専門:インド学

  • 掲載内容は、取材当時のものです