大学院生のときに初めて触れた北アイルランドの詩。「北アイルランドに留学して暮らす中で、詩と社会の結びつきを強く感じた」と佐藤泰人講師は語る。以後、「北アイルランドの詩と社会」をテーマに研究を続けている。英米文学科での学びは詩を鑑賞するだけに止まらない。詩の書かれた国の歴史や文化を知ることで、理解が深まるのだ。

詩と社会のつながりを知りたくて

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私は現在、20世紀のアイルランドの詩を中心に研究しています。詩には「意味の隙間」ともいうべきものが多く、そうしたところに魅力を感じています。私が詩の世界に足を踏み入れたきっかけは、イギリスのロック音楽でした。英語の歌詞を通じて「詩」という文体の持つ表現力に引き込まれたのです。小説のように多くを語らない詩の言葉には、不思議と心に訴える力がありました。

大学院生のときにアイルランドの詩を読むサークルに入ることになった私は、北アイルランドの詩人の作品に初めて触れました。政治的な状況と文学的な表現とが混然一体となった詩は、日本ではなじみのない世界でした。このような詩が生まれる国を自分の眼で見てみたいと、北アイルランドの大学へ留学し、研究生活に入りました。実際に暮らしてみると、詩や文学が社会と密接にからみあって動くさまを目の当たりにすることがしばしば。詩人が公共機関に勤務し、密接に行政や社会に関わっている場合もありました。文学と社会、詩と社会がいかに結びついているのか。そのときから、私の研究は「北アイルランドの詩と社会」がテーマとなりました。

歴史的背景を知れば理解が深まる

詩を読むことは、詩の書かれた国の文化を理解することにつながります。ひとつひとつの作品が、社会的、歴史的にどんな背景のもとで作られたのかをひも解くことにより、内容理解が深まるものです。と同時に、自分が置かれている現状と詩の内容とが、どう響き合うのかを考えながら読むこともできるのです。

たとえば、芋掘りを描いた詩がいくつかありますが、アイルランド人ならば「大飢饉」のことが必然的に思い出されます。19世紀のアイルランドで主食のジャガイモが疫病により枯死したことで起こった飢饉で、死者は100万人ともいわれ、飢饉を逃れるために、さらに100万人がイギリスやアメリカへと渡りました。そうした歴史的な背景を知ると、詩の理解が深まる。いっぽう、そうした歴史を知らなくても、ひんやりした土の触感を私たちは覚えているでしょう。またはジャガイモに個人的な思いを持っているかもしれない。詩を読むなかでそうした個人感覚と未知の他者とがつながり、経験を豊かにします。

詩を通じて他者とつながる機会を

英米文学科では単に英語の勉強をするのではありません。文学で英語を深く学びます。なかでも詩は、凝縮された表現だけに、下手に日本語に訳しても意味不明です。音の響き、形、内に外に含む意味を英語のまま受け止めることで、英語という言葉の本質に迫っていくのです。

授業では、詩を読んで味わい、小論文を書く活動を取り入れています。小論文はインターネットを通じて提出し、他の学生もダウンロードして読むことができます。そして読み合わせをして、自分はなぜそう考えたのか、他の学生はどう考えるのかを話し合います。日本語や英語で詩を書く課題も出しています。自分で詩を書くことによって、詩の理解が深まり、読み方が変わってくるからです。また、授業中に詩の音声上の問題や意味上の問題について学生が発表し、その内容について意見交換する場も設けています。単に詩を読んで味わうだけでなく、その作品を通じて自分が考えたことを、口頭もしくは文字で表現することによって、相手に伝える力を高めていくのです。

詩など実社会ではなんの役にも立たない、と思われていますよね。でも英語の詩を真剣に読むことは、このように、さまざまな他者との真摯な関わりなのです。それがどれだけ自分の可能性を広げることか。英米文学科に入学しない限り、英語の文学や詩をじっくりと読む機会はあまりないでしょう。一生に一度の貴重な体験を、みなさんにもぜひ味わってほしいですね。

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佐藤泰人准教授文学部 英米文学科

  • 専門:イギリス文学・アイルランド文学

  • 掲載内容は、取材当時のものです