Research 「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ

ABOUT

接続可能な社会(サスティナビリティ)をデザインする。

接続可能な社会(サスティナビリティ)をデザインする

東洋大学「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ(TIEPh)は文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の5年間(2011-2015)の研究活動を終了し、2016年度より大学予算措置を得て、東洋大学国際哲学研究センターと統合し、引き続き研究活動を行っていくこととなりました。

2016年度以降の活動については東洋大学国際哲学研究センターのページをご覧ください。

センター概要

ごあいさつ

エコ・フィロソフィの構築に向けて

東洋大学エコ・フィロソフィ学際研究イニシアティブ(TIEPh)は、2007年に東京大学を中心とするサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)の協力機関として発足した。IR3Sは、文部科学省の科学技術振興調整費によって運営され、新しい学的領域の構築に大きく貢献してきたが、本年3月をもって同調整費の交付が終了し、参画した大学や研究機関は、それぞれに従来の研究を促進・発展させて、サステイナビリティ学の確立を目指すことになった。これにより、TIEPhも学内研究機関として、新たな出発を図ることになったのである。

この4年間のTIEPhの活動を省みたとき、本学にはなかった新たな哲学的展開を提示し得たことの意義は大きい。ことに第1ユニットの古典文献学をエコロジーに反映させ、それを実践的論理として再構築しようとする試み、第2ユニットの環境意識にもとづく行動理論の解明や、第3ユニットの環境哲学の具現化としての環境デザインのあり方の探求など、哲学研究の可能性を示したものといえる。

実はTIEPhが掲げたエコ・フィロソフィの構築は、東洋思想にもとづく新しい価値観の創生にあった。近代西欧の価値観が、今日の環境状況を生み出したという認識のもとに、それに代わるべき価値観を、東洋の思想の中に求めようとしたのである。それは特に西欧にはない独自の自然観を探求して、自然との共生や自然との融合を現代の眼から考えようとすることであって、西欧の文明の否定でもなければ現代の攘夷論でもない。ただ価値観を転換しなければ、やがて取り返しのつかない事態に襲われる。もちろん人類は、現在の文明を捨てて300年前の生活に戻ることはできない。しかし例えばそう遠くない将来、石油は必ず枯渇する。そのとき人類は、石油文明にもとづく現在のシステムとは別のシステムへの移行を余儀なくされる。例えば食糧問題や民族問題についても、その解決を図るのであれば、いずれ地球規模のシステムを変えねばなるまい。徐々にであれ急劇にであれ、システムは代わる。そのシステムの基盤になるのが価値観であり哲学である。それをわれわれは、エコ・フィロソフィと名付けた。

したがって、エコ・フィロソフィは、きわめて多面的でありまた多岐にわたる領域を持つ。人の生き方から社会規範、地域、民族、国家、地球など、人類のあらゆる生存基盤が含まれる。その意味では、従来の哲学という領域にはおさまらない総合学であると考えている。

TIEPhセンター長 山田利明

TIEPhセンター長
山田 利明

TIEPhとは

TIEPhとは、Transdisciplinary Initiative for Eco-Philosophy(「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ)の略称である。センター(Center)ではなくイニシアティブとしたのは、「エコ・フィロソフィ」という新しい分野を作り上げるための先導性を重視したからである。

TIEPh設立のきっかけとなったのは、2005年に文部科学省科学技術振興調整費を受けたサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S東京大学)に、東洋大学が協力機関として参画したことに始まる。サステイナビリティ学、すなわち持続的発展をめざす研究領域の確立に際し、その思想的基盤を受け持ったのがTIEPhである。
東洋大学では、「共生」と「環境」に対する関心が高く、これまでも「国際共生社会研究センター」や「共生思想研究センター」などが活動しており、TIEPhはそれらの成果にもとづき新しいエコ・フィロソフィを確立して、サステイナビリティ学に寄与しようとしたのである。

例えばフィリチョフ・カプラは、分析的な近代科学思想の欠陥をいくつか挙げ、統一的な東洋思想にもとづく思考の中に現状を打破するヒントを求めた。新しい研究領域を立てるのであれば、当然こうした新しい発想をとり入れる必要があるし、従来の発想を超える転換も必要となる。もちろん現在の科学技術や文明が、ヨーロッパの科学思想にもとづく精華であることはその論をまたない。ただ、従来と同じ線上を進んでも、同じ問題が繰り返されるだけで根本的な解決にはならない。したがって、これまでとは異なる東洋思想による自然観や価値観のあり方を探究し、それにもとづく環境デザインの構成を考える学際的機関としてのTIEPhが構想された。

2010年3月をもって、科学技術振興調整費の交付は終了したが、サステイナビリティ学の重要性が無くなったわけではない。むしろこれからの活動に大きな期待がかけられている。そこでIR3Sに参画した研究機関が中心となり、社団法人サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(SSC)が設立され、活動が継続される。TIEPhもその有力メンバーとして参加し、今後もエコ・フィロソフィを展開することになる。

研究ユニット

1. 自然観探究ユニット

我々がライフスタイルを改革・実践していくには、その人にとっての確たる思想が自覚されていることが重要であろう。その思想は、けっして借り物ではない、真に自分自身の存在の根底から築きあげられたものでなければならないに違いない。単に西洋は行き詰まっている、東洋は可能性があるという、表層的な印象による気分のみでなく、日々、自己が生活し呼吸している場を形成している社会・文化の深層にあるものを汲み上げて、現代社会の課題に取り組むべきであろう。そういう立場に立って、我々は東洋の自然観、日本の自然観の核心にあるものを掘り下げたいと思うのである。

科学者の中には、近年の温暖化等々の影響によって、実はこの地球世界はもう50年いや30年も持たないと、真剣に警告している方もいる。事態はまことに深刻であり、今やサステイナビリティを追求する実践が急務であることも、きっと間違いないことであろう。未来世代のいのちあるものの身のうえを思うとき、できるかぎりの実践を行わずにはいられない。また、できるかぎり社会の仕組みの改革に、関与していくべきであろう。政策への意思表示のほかにも、たとえば、リサイクル・システムへの協力や、フェアトレード運動への参画など、考慮すべきことは多い。

と同時に、自己と自然環境のあり方、自己と他者のあり方、について、深い洞察を獲得し、人々と共有していくことも、問題解決への道を根底において支えることになるであろう。それは短期的な効果は希薄かもしれないが、長期的にはぜひとも必要なことである。とりわけサステイナビリティのことを想うとき、未来の見知らぬ他者との関係をどのように自覚するかが課題となる。このような問題を、今はやりの言葉でいえば、可視化していくことが必要である。自然観の探究の視点にも、そうした観点を導入しての、意欲的な研究が重要だと思うのである。

2. 価値観・行動ユニット

TIEPhでは、2007年から2008年にかけて、第2ユニットが中心となり、シンガポール、中国、ベトナム、日本において環境に関する価値観調査を実施しました。調査結果からは、自然観、生活観、科学観などに地域差があり、それらが環境保護の意識と関連していることが明らかとなりました。また、西洋諸国を対象とした同種の調査との比較から、東洋と西洋の間の価値観の文化差も示されました。このような、価値観の地域差や文化差が、環境配慮の意識や行動にどのような影響を及ぼしているのかを知ることが、第2ユニットの研究テーマのひとつです。今後も経済発展の著しいアジア諸国を中心に調査研究を継続し、人々の価値観という側面からエコ・フィロソフィについての考察を進めていきたいと考えています。

一方、社会心理学の観点からは、環境問題は社会的ジレンマの事例としてとらえることができます。社会的ジレンマとは、個人の利益と社会の利益とが両立しない状況を指し、個人個人がそれぞれに自分の利益を追求すると社会全体として不利益が生じるというものです。社会的ジレンマは解決が難しい問題として知られており、環境問題においても個人が快適で便利な生活ばかりを求めるのではなく、地球社会や未来社会の利益のために行動するようになる条件が模索されています。第2ユニットでは、集団やコミュニティにおける社会的な人間関係の視点から、解決策を探る研究を積み重ねています。

環境に配慮した行動を取るための条件を個人のレベルで見てみると、行動することの重要性はわかっていても、実際に行動には移せないという状況が明らかとなります。このような認識と行動の不一致はさまざまな場面で見られ、社会心理学の基本的な研究テーマのひとつとなっています。そこで、環境配慮行動に影響を及ぼす社会的な要因を明らかにし、行動を促す具体的な方策を提言することも、第2ユニットの研究目標のひとつです。特に、社会的な規範意識の形成や、広告や説得などのコミュニケーションの効果を調べる研究が進められています。

社会心理学は、現実社会のさまざまな問題を扱っていますが、環境問題に関する研究は、その社会的な重要性の割にはまだ十分な広がりを見せていません。TIEPhの第2ユニットは、この分野の社会心理学的研究を推進する拠点となるべく積極的に活動を進めていきたいと考えています。

3. 環境デザインユニット

環境デザインの課題は、環境設計をアイディアとして企画し、現実の環境問題に対して、より多くの選択肢を提示していくことである。現在の環境問題への対応は、それほど多くの選択肢の中から選択がなされているわけではない。それらの多くは、現実の行動を抑制する方向で課題設定されることが多い。二酸化炭素を出さないように、つつましやかなで、禁欲的な生活のモードを模索するというような、いわば生活態度の規制を目指すものも多い。エレベータに乗るよりも、できるだけ階段を歩こうというスローガンは、個々人の倫理的態度に訴える以上、少し無理がきている。むしろエレベータに乗るよりも、階段を上った方が面白く、その階段を登れば、いくつもの経験ができるような階段を設計してしまうことに力点を置くのが、環境デザインの課題である。そこには身近な小さなアイディアから、都市設計にいたるまで、さまざまなレベルの課題がある。たとえば歩行者の集中するエスカレータを降りた直後の通路には、発電板を設置して、歩行頻度がおのずと自家発電につながるような工夫である。

こうした課題設定が目指すのは、現実の生活において、個々人ごと、あるいは個々人間の選択肢を増やすことである。江戸時代のように物質循環の範囲で生活をしようと希望するものには、そうした選択が可能となり、ニューヨークのような生活を送りたいものにはそうした選択が可能となるような、多重回路網の設定である。こうしたなかで個々人は、みずから工夫しながら、生活することができるような設計である。こうした工夫をつうじた個々人のライフ・デザインは、その人のセルフ・デザインであると同時に、間接的に環境問題に寄与するような設計を行うことになる。素材は過去のアジアの智恵にも、最先端の科学技術にも広く分布している。必要とされるのは、選択肢に満ちた工夫である。

研究メンバー

2015年度研究メンバー
氏名 役職
山田 利明
Toshiaki YAMADA
代表(センター長)、環境デザインユニット
Professor, Environment Design Unit Project Representative
大島 尚
Takashi OHSHIMA
価値観・行動ユニット
Professor, Values and Behavior Unit
河本 英夫
Hideo KAWAMOTO
環境デザインユニット
Professor, Environment Design Unit
竹村 牧男
Makio TAKEMURA
自然観探求ユニット
Professor, Nature Unit
永井 晋
Shin NAGAI
自然観探求ユニット
Professor, Nature Unit
相楽 勉
Tsutomu SAGARA
自然観探求ユニット
Professor, Nature Unit
坂井 多穂子
Tahoko SAKAI
自然観探求ユニット
Associate Professor, Nature Unit

山本 亮介
Ryosuke YAMAMOTO

自然観探求ユニット
Associate Professor, Nature Unit
信岡 朝子
Asako NOBUOKA
自然観探求ユニット
Lecturer, Nature Unit
安藤 清志
Kiyoshi ANDO
価値観・行動ユニット
Professor, Values and Behavior Unit
堀毛 一也
Kazuya HORIKE
価値観・行動ユニット
Professor, Values and Behavior Unit
山田 一成
Kazunari YAMADA
価値観・行動ユニット
Professor, Values and Behavior Unit
西村 玲
Ryo NISHIMURA
客員研究員
Research Fellow
稲垣 諭
Satoshi INAGAKI
客員研究員
Research Fellow
田村 義也
Yoshiya TAMURA
客員研究員
Research Fellow
唐澤 太輔
Taisuke KARASAWA
客員研究員
Research Fellow
早川 芳枝
Yoshie HAYAKAWA
客員研究員
Research Fellow
王 媛
WANG Yuan
客員研究員
Research Fellow
武藤 伸司
Shinji MUTO
客員研究員
Research Fellow
岩崎 大
Dai IWASAKI
研究助手
Research Associate
野村 英登
Hideto NOMURA
研究支援者
Research Supporter
増田 隼人
Hayato MASUDA
プロジェクトリサーチアシスタント
Project Research Assistant(PRA)

活動報告

成果報告

平成23年度~平成27年度 研究成果報告書

2011年度より文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成事業」に採択された東洋大学「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブの5年間の活動について、研究成果報告書を作成いたしました。

研究成果報告書データ(1)  [PDFファイル/20.25MB]

研究成果報告書データ(2) [PDFファイル/19.04MB]

研究成果報告書データ(3) [PDFファイル/20.55MB]

研究成果報告書データ(4) [PDFファイル/21.81MB]

研究年報

2016年度のTIEPhの成果報告をまとめました

Eco-Philosophy Vol.11 [PDFファイル/4.22MB]

著者ごとの論文のダウンロードを希望する方はこちら

方術から方技へ [PDFファイル/323KB] 山田利明

南方熊楠の「自然保護」 [PDFファイル/1.25MB] 田村義也

浸透する場あるいは〈中間〉の視座 ―動物・幼児・妙好人― [PDFファイル/299KB] 唐澤太輔

坂口安吾の歴史観―古代東アジア史を中心に [PDFファイル/341KB] 早川芳枝

佐藤直方の静坐説における実践的側面について [PDFファイル/317KB] 野村英登

世界を見つめる眼差し :W.ホイットマン・児玉花外・郭沫若 [PDFファイル/546KB] 横打理奈

システム的介入の最近接領域 [PDFファイル/320KB] 河本英夫

チバニアム [PDFファイル/1.12MB] 河本英夫

絶滅危惧種リュウノヒゲモと琵琶湖・淀川水系固有種 ネジレモに関する保全遺伝学的研究 [PDFファイル/1.21MB] 金子有子

現象学と自然科学の相補関係に関する一考察(3) [PDFファイル/317KB] 武藤伸司

書評:竹村牧男『ブッディスト・エコロジー―共生・環境・いのちの思想―』 [PDFファイル/299KB] 水谷香奈

2015年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2014年度のTIEPhの成果報告をまとめました。 

 2013年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2012年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2011年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2010年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2009年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2008年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2007年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

2006年度のTIEPhの成果報告をまとめました。

成果報告
  • 2013年度「エコ・フィロソフィ入門」調査結果報告→こちら
  • 2006年度から2009年度までの東洋大学「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブの成果をまとめました。
    こちらから参照ください。→2006年度~2009年度活動項目一覧表

リンク