【SDGs NewsLetter】災害時でもトイレの使用を確保し、 「トイレパニック」を防止。 持続可能な社会づくりの一助へ

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vol.41

東洋大学は“知の拠点”として
地球社会の未来へ貢献します

2025.10.20発行

06.安全な水とトイレを世界中に
11.住み続けられるまちづくりを

災害時でもトイレの使用を確保し、 「トイレパニック」を防止。 持続可能な社会づくりの一助へ

近年、地震や集中豪雨といった自然災害の激甚化が進み、都市インフラの脆弱性が浮き彫りになっています。その中でも、見落とされがちなのがトイレに関する問題。過去の災害時に起きていた「トイレパニック」や災害時においても運用できるトイレのシステムについて、理工学部都市環境デザイン学科の山崎教授がお話しします。

summary

  • 災害時にトイレが使用不能になる「トイレパニック」は、健康や命に直結する見えないリスク
  • 浄化槽を活用した分散型インフラは、災害時に地域のトイレ不足を解消する仕組みとなりえる
  • 災害対応にとどまらない、持続可能な社会を実現する鍵としても期待される浄化槽

命を守るインフラに潜む盲点「トイレパニック」

自然災害が深刻化する中で、私たちの生活にどのような影響が生じているのでしょうか。

近年、地震や豪雨は想定を超える被害をもたらしています。その中で見過ごされがちなテーマが「トイレ」です。被災者調査では「6時間以内にトイレに行きたくなった」と答えた割合が東日本大震災で66%、阪神淡路大震災では94%に上りました。これは飲料水や食料よりも先にトイレが必要になる事実を示しています。
「トイレパニック」をご存知でしょうか。災害で水道や電気が止まり、水洗トイレが使用できない状況であるにも関わらず、そこに排泄が繰り返される現象で、衛生環境の悪化は感染症や治安リスクを高める要因にもつながります。さらに、排泄を少なるするために飲食を我慢すれば、脱水やエコノミークラス症候群を引き起こすなど、場合によっては命にかかわる健康被害を招く恐れがあります。災害時には仮設トイレもすぐには整備されず、東日本大震災では3日以内に設置された避難所が約3割にとどまり、中には設置に65日を要した例もあります。トイレ問題は健康・衛生・治安に直結する重要な課題でありながら、そのショッキングさゆえに報道が少なく、社会的認識も不十分です。結果として、災害時のトイレ対策に関する優先順位は後回しになっており、被災者を苦しめる「見えないリスク」となっています。

分散型インフラ「浄化槽」が切り拓くトイレ問題解決の道

「トイレパニック」を防ぐには、どのような対策が考えられますか。

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一つは、自治体や民間企業、団体が災害協定を結び、災害時におけるトイレに関連する資材や施設を迅速に供給できる体制を準備しておくことです。また、災害時を想定して、仮設トイレ等を設置するだけでなく、バキュームカーで仮設トイレの汚物を安全に処理施設へ運ぶ収集モデルの構築も欠かせません。
 加えて、より根本的な解決策として注目されるのが「浄化槽」です。下水道の未整備地域で用いられてきた分散型排水処理システムで、都市インフラが停止しても、分散しているため同時に機能不全に陥りにくく、その一部は、利用続けられる可能性が高いのです。浄化槽には災害に対応した多くの利点があります。まず、自宅敷地内に設置されていることから、配管が短く、破損リスクが低いこと。そして、停電時でも排水処理に必要な最低限の沈殿・消毒が可能であり、バケツの水さえあれば使用できること。さらに、汚物を1年程度貯留できるため、バキュームカーがしばらく来なくても利用可能なことなどが挙げられます。
 本学川越キャンパスの新校舎にも、災害時でも利用可能な浄化槽を活用したトイレシステムを構築予定です。

東洋大学川越キャンパスの新校舎に導入するトイレシステムについて教えてください。

本学川越キャンパスでは、元々、水洗トイレの洗浄水として井戸水を使用しており、トイレ排水はキャンパス内にある浄化槽で処理がなされています。今回導入するのは特別な新技術ではなく、太陽光発電設備を備えた耐震性の高い新校舎と、浄化槽を組み合わせたシステムです。システムの根底には、「災害時におけるトイレ稼働の優先度を高める」という考え方があります。具体的には、災害時における水洗トイレ使用の遅れを避けるため、井戸水やポンプへの電力供給を確保し、浄化槽につながる水洗トイレを確実に利用できる機能を整えています。
 このシステムは、災害時や長期間の停電時には、帰宅困難となる学生や教職員だけでなく、地域住民にも開放したいと考えています。災害時でも水洗トイレが使用できる機能を持たせることで、地域の方々にも安心していただけると思います。浄化槽は単なる設備ではなく、地域のレジリエンス(回復力)を下支えする重要なインフラとなりえます。大学が地域社会と協力し、防災・減災の一助となる意義は非常に大きいといえるでしょう。

持続可能な社会創造へ、排水処理分野からアプローチ

今後のビジョンについてお聞かせください。

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排水処理の実験の様子

災害対応にとどまらず、地球温暖化や資源循環、生物多様性保全といった環境問題にも対応した排水処理システムを構築したいと考えています。浄化槽内部には、窒素やリンなど資源として再利用可能な物質が含まれており、循環利用の技術開発が進めば資源循環型社会に貢献できます。また浄化槽は日本独自の技術として開発され、発展し、海外にも輸出されています。国際協力を通じて防災や環境保全に寄与する可能性もあります。
 一方で課題となるのは、どの分野でも共通かも知れませんが、担い手不足です。排水処理システムの維持管理を担う人材の減少を補うため、積極的にデジタル技術の導入を進めるべきです。加えて、現場で柔軟に対応できる人材育成と技術継承も必要不可欠だと考えています。
「レジリエント・シティ」として、単なる「災害に強い、壊れにくい都市」だけではなく同時に、「壊れても立ち直れる都市」を目指していく必要があると考えています。実現に向けて、設備、技術、そして人材が三位一体となって機能する必要があります。私たちの研究が、誰もが安心して暮らせる持続可能な社会の一助となることを願っています。

山崎 宏史(やまざき ひろし)

東洋大学 理工学部都市環境デザイン学科教授/博士(工学) 2025年10月に環境大臣表彰(廃棄物・浄化槽研究開発功労者)を受賞。
専門分野:水環境/衛生工学
研究キーワード:浄化槽/ディスポーザ/地球温暖化 
著書・論文等:ディスポーザ対応浄化槽の高度処理化とLCCO2評価(共著)[日本水処理生物学会誌Vol. 46, No. 2]/節水機器の導入が浄化槽の処理性能に及ぼす影響(共著)[土木学会論文集G(環境) Vol. 72, No. 7]

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