【SDGs NewsLetter】「100年先の森」をつくる。 都市と人と自然をつなぐ 保全活動の今

SDGs NewsLetter

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vol.38

東洋大学は“知の拠点”として
地球社会の未来へ貢献します

2025.07.17発行

06.安全な水とトイレを世界中に
11.住み続けられるまちづくりを
15.陸の豊かさも守ろう
17.パートナーシップで目標を達成しよう

「100年先の森」をつくる。 都市と人と自然をつなぐ 保全活動の今

都市の中で失われつつある「緑地」。その価値を十分に理解しないまま開発が進む中で、自然を守り、次世代に受け継いでいくことの重要性はますます高まっています。埼玉県川越キャンパスの「こもれびの森・里山支援隊」で自然環境の保全活動をしてきた総合情報学部の小瀬教授が、都市における緑地保全の意義や、里山の持つ多面的な価値についてお話しします。

summary

  • 都市の緑地は、災害リスクの軽減や快適な生活環境、生物多様性の保全といった多面的な価値を持つ
  • 里山保全は、人の手による管理と地域との関わりを通して、自然と共に生きる感覚を育む実践の場となる
  • 100年先も持続可能な森を目指し、教育・研究・地域連携を一体化した長期的な自然再生に取り組む

都市に生きる私たちの生活を支える「緑地」

都市における緑地保全は、なぜ重要なのでしょうか。

近年の都市部では、住宅地の拡大やインフラ整備の影響で、緑地や農地が急速に姿を消しています。自然が本来持つ機能への理解が不十分なまま開発が進んだ結果、さまざまな問題が顕在化しているのです。その一例が、ゲリラ豪雨や集中豪雨による水害。緑地が減少すると、雨水の逃げ場が失われ、道路の冠水や住宅の浸水といった被害が起こりやすくなります。
緑地は他にも、気温の上昇を抑えたり、空気を浄化したり、資源の供給源や憩いの場として機能したりと、多様な役割を果たしています。私たちの生活の質を根底で支える存在といえるでしょう。だからこそ、都市の中で緑地をどのように保ち、活かしていくかを真剣に考える必要があります。

人の手で育む、持続可能な森づくり

「こもれびの森・里山支援隊」の活動について教えてください。

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東洋大学川越キャンパスの敷地の約3割は雑木林で、その一部に約5haの「こもれびの森」があります。「こもれびの森・里山支援隊」は2014年の発足以来、地域の方々と協力しながら11年間にわたり、この森の自然環境の保全に取り組んできました。主に下草刈りや間伐などを通じて、里山の生態系と景観の維持を図っています。
自然は「そのまま残せばよい」と考えられがちですが、実際は人の手による適切な管理が欠かせません。放置された森は過度に草木が繁茂し、光が入らず、動植物の生息に適さない環境になってしまいます。一方で、丁寧に手入れされた森は、人にとっても生き物にとっても心地よい空間になるのです。
また、支援隊の活動は、自然や生物多様性の保全にとどまらず、学生や地域の方々が自然に触れる機会を創出するという教育的な側面も担っています。

地域住民や子どもたちを対象としたイベントも開催されているそうですね。

支援隊では、森に親しみ、その価値を実感してもらうために、多様なかたちでのコミュニケーションを大切にしています。中でも重視するのが、子ども向けの木工教室や、近隣の中学校・高校と連携した里山保全活動といった次世代に向けた取り組みです。こうした体験を通じて環境への関心や理解を育み、持続可能な地域社会づくりにつなげたいと考えています。
支援隊には、首都圏で同様の活動を行う団体の構成員や研究者も参加しています。全国で数多くの自然保護団体や専門家が活動していますが、それぞれが個別に取り組んでおり、十分な連携が図られていないケースも少なくありません。そのため、今後は共通の目的・目標を持つ者同士の協働がより重要になるといえるでしょう。

100年先を見据え、長期的な時間軸で自然と向き合う

2027年、川越キャンパスに環境イノベーション学部※が新設されますが、どのような期待を寄せていますか。

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川越キャンパスには、自然に近い形で維持された雑木林が広がる一方、大学なのでトイレや食堂といった設備も揃っています。平地でこれほど条件が整った自然環境は非常に珍しく、学術研究や学生のフィールドワークの場としても恵まれた環境です。こうした土台があるからこそ、自然環境分野に関心のある若者が集まり、より実践的かつ濃密な学びを提供できると考えています。
これまでは景観維持を中心に取り組んできましたが、今後は微生物やバイオマスなど新たな視点から、森の持つ多様な機能にアプローチしていくこともできるでしょう。教育と研究、そして地域連携を一体的に進められる場として、川越キャンパスの自然環境を一層活かしていきたいと考えています。

今後の展望についてお聞かせください。

自然との関わり方に、決して「正解」があるわけではありません。私たちは仮説や理論、シミュレーションに基づいて里山の管理を行っていますが、実際に全てを読み切ることは困難を極めます。特定の生物が姿を消すなど、予測できない事態に直面し、アプローチの妥当性について自問するのは日常茶飯事です。それが自然と関わる難しさであり、面白さでもあります。重要なのは、短期的な成果にとらわれず、100年先を見据えて長い時間軸で取り組む姿勢です。例えば川越キャンパスでは、10年ほど前からグラウンドの一部に植林し、自然に戻す試みを始めました。こうした活動もすぐに成果が表れるものではありませんが、試行錯誤を重ねながら、キャンパス内の自然環境と向き合っていければと思います。
最終的な目標は、100年後も地域の方々に愛される森を残すこと。その実現に向けて、一人ひとりの自然への関心を育み、資源が円滑に循環する新たな森の在り方をデザインしていきます。

※仮称、2025年現在設置構想中。計画は変更となる可能性があります。

小瀬 博之(こせ ひろゆき)

総合情報学部総合情報学科教授/博士(工学)
専門分野:建築環境工学/環境保全/コミュニティデザイン
研究キーワード:給排水衛生設備・水環境/生きもの育む森林保全・農業・緑化/地域活性化・川越
著書・論文等:コロナ禍による住宅の水使用変化に関するアンケート調査−在宅勤務者に着目した分析−(共著) [空気調和・衛生工学会論文集]
関連リンク:東洋大学川越キャンパスこもれびの森・里山支援隊 https://sites.google.com/toyo.jp/toyokomorebi/home

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