【SDGs NewsLetter】地域芸術祭のあり方を模索し、「観光まちづくり」が持つ可能性を開拓する

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vol.37

東洋大学は“知の拠点”として
地球社会の未来へ貢献します

2025.04.25発行

11.住み続けられるまちづくりを
17.パートナーシップで目標を達成しよう

地域芸術祭のあり方を模索し、「観光まちづくり」が持つ可能性を開拓する

東京一極集中が課題となり、地方創生の重要性が増す中で、地域資源を活用して地域活性化を目指す「観光まちづくり」が注目されています。その一環として、近年日本各地で地域芸術祭が開催されるようになりました。地域を舞台に展開されるアートが社会にもたらす影響や可能性について、社会学部国際社会学科の山田香織准教授がお話しします。

summary

  • 地方創生のために「観光まちづくり」が推奨されてきた
  • 地域芸術祭は経済効果だけではなく、地元への愛着や誇りの醸成にも有効
  • 地域住民の意見を反映させた持続可能なイベントや市民主体の活動が生まれている

観光を軸として持続可能な地域社会の実現を目指す

「観光まちづくり」とは何か具体的に教えてください。

山田香織准教授インタビューカット

日本を含む先進諸国では1960年代ごろからマス・ツーリズムの時代を迎えました。70、80年代にはそれが拡大しましたが、弊害や批判が生じ、80年代末から「新たな観光のあり方」への関心が高まりました。その一方で、日本では観光立国宣言(2003年)や地域再生における観光への期待によって、地域資源を活かして持続可能な地域社会の実現を目指す「観光まちづくり」が注目されるようになりました。この取り組みは、観光地として知られる地域に限りません。これまで注目されてこなかった観光資源を掘り起こしたり、ブランディングによって付加価値をつけたりすることで、人の循環を生み、活気をもたらしていくプロセスが観光まちづくりの狙いです。

地域社会に対してどのような影響を与えるのでしょうか。

観光まちづくりは、国の地方創生政策に関連づくこともあり、地方自治体など行政主導で行われるケースが多い点が特徴です。行政も予算を使ってヒト・モノ・カネを回し、地域経済を活性化させようと試みています。しかし、単に新たな地域産業を興し経済を活性化することだけが目的ではありません。例えば、島嶼部や中山間地域では、過疎化が進み、移住などによる人口増加があまり期待できない自治体も存在します。新たな観光資源が掘り起こされ、観光客が訪れるようになれば、交通インフラが維持・整備され、間接的に地域住民の暮らしも便利になるというメリットが期待できます。また、新たな観光資源の誕生で人が訪れ、住民には当たり前だった風景や暮らしが注目されることで、地域住民が地元に誇りを持てるようになったり、地域活性化を担う人材の育成につながったりと、さまざまな波及効果が見込まれるでしょう。

“埋め込まれた”祭りが地域社会に何をもたらすのか

観光まちづくりの一環として開催される地域芸術祭について教えてください。

地域芸術祭は、アートを用いて地域の特徴を表現することで、ヒト・モノ・カネの流動性を高める試みといえます。観光客の来訪がほぼなかった中山間地域や離島における地域振興の取り組みとして展開されるようになり、場所・土地との関連性を有した作品(サイトスペシフィック・アート)を展示している点が特徴的です。経済効果だけでなく、地域住民が作品制作に参加したり、現地の魅力を来訪者に伝えたりすることで、やりがいや楽しみ、緩やかな新しいつながりを生み出すといった効果もあります。

私は香川大学への赴任をきっかけに、瀬戸内国際芸術祭を対象として地域芸術祭が地域に与える影響を研究してきました。経済面から見ると、地域芸術祭を目的とする観光客が大幅に増加したことで、開催年には百億円規模の効果がもらされています。一方、私は、外部から“埋め込まれた”祭りである、この芸術祭を地域住民がどのようにとらえているのかという点に興味を持ちました。調査をしていくと、アートに対する関心度や理解度には温度差が見られましたが、先述の通り、作品制作などに主体的に関わる住民が多くいることがわかりました。また、この機会をとらえた新たなまちづくり活動の動きも見ることができました。

地域芸術祭が抱えている課題はありますか。

挿入画像:瀬戸内国際芸術祭にて作品や島内の名所を案内するガイドツアーの様子
瀬戸内国際芸術祭にて作品や島内の名所を案内するガイドツアーの様子

瀬戸内国際芸術祭は3年に1回の開催です。作品の一部は会期が終わっても継続的に展示されますが、すべての島で恒常的に芸術祭開催年同様の誘客が望めるわけではありません。しかしながら、日頃から観光を主産業としているわけではない地域がほとんどで、高齢化が進んでいる島も多いことから、毎年開催すると地域が疲弊してしまいます。また、芸術祭には公的資金が投入されているので、経済的側面からも厳しいでしょう。これからは、各地が開催地の離島に限定することなく、この芸術祭をまちづくりの契機としてどう活かしていくのか(活かさないという選択も含めて)を見極めて、次なる段階に進んでいくことが求められるのかもしれません。その際、持続可能性への目配りは不可欠でしょう。

時代とともに変わりゆく地域芸術祭のかたち

今後のビジョンについてお聞かせください。

観光まちづくりとしての地域芸術祭が盛んに行われるようになり15年近く経ちますが、投入される公的資金が減少するなどの影響で、開催当初とは形を変えながら継続している取り組みも出てきました。国際芸術祭のような大規模イベントから、地域により密着した小規模な催しに移行したケースもあるのです。しかし、だからといって内向きの催しになるのではなく、大規模で国際的なイベントで培ったノウハウや経験を活かして取り組みが進められている点が特徴です。今後は、瀬戸内国際芸術祭のみならず、日本各地ひいては海外の事例も調査し、アートを介した観光まちづくりの可能性を模索していきたいと考えています。

山田 香織(やまだ かおり)

社会学部国際社会学科准教授/博士(文学)
専門分野:人文・社会/地域研究
研究キーワード:ドイツ、日本、アソシエーション、アート、ツーリズム、ドイツ語教育
著書・論文等:人をつなげる観光戦略―人づくり・地域づくりの理論と実践 (共著)[ナカニシヤ出版]

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