【特集】自然界にいる細菌を使って水を浄化、世界で活用できるシステム開発を目指す

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2020.12.22発行

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自然界にいる細菌を使って水を浄化、世界で活用できるシステム開発を目指す

水は生きる上で欠かせない資源。きれいな水環境を守っていくためには排出する水を適切に処理しなければなりません。理工学部応用化学科の井坂和一准教授は自然環境に存在する細菌を使って水を浄化する省エネ型の排水処理システムを研究しています。

summary

  • 従来の半分のエネルギーで排水処理
  • 自然界のどこにでもいる細菌を活用
  • 人間と同じく微量金属のバランスが重要

従来の半分のエネルギーで排水処理

河川や海洋、湖沼などの水源の保全は世界規模の課題になっています。

日本では1970年代に工場排水によってイタイイタイ病や水俣病が引き起こされました。同じ悲劇を繰り返さないために、法律で排水の水質基準が定められ、現在も適宜見直しが図られています。工場ではその基準に合わせて、水に含まれるさまざまな物質を除去し、浄化してから放流しなければなりません。 規制対象となる物質の一つが窒素化合物です。水に過剰に含まれると富栄養化が起こり、藻類の異常繁殖を招きます。海面が赤く染まる赤潮はアオコという藻が原因で、景観が悪化したりや悪臭が発生したりするだけでなく、水中の酸素が不足し生態系に大きな影響を及ぼす恐れもあります。

水中の窒素化合物はどのようにすれば除去できるのでしょうか。

水中の窒素化合物はどのようにすれば除去できるのでしょうか。

硝化脱窒法という処理方法が広く用いられています。排水中の窒素はほとんどがアンモニア(NH4+)なので、反応槽に硝化菌を投入し、酸素を送って酸化させれば、亜硝酸(NO2-)や硝酸(NO3-)に変換できます。これを酸素の無い反応槽に送り、脱窒菌を投入すると亜硝酸と硝酸から酸素を奪う反応が生じ、残った窒素が気体になって大気中に放出されます。 一方、私が研究するアナモックス菌という細菌はアンモニアと亜硝酸から、水と窒素ガスを作ります。硝化脱窒法ではアンモニアをすべて酸化しましたが、アナモックス菌を使う場合、アンモニアの酸化は半量で良く、酸化に要するエネルギーも半分で済みます。つまり、窒素の処理にかけていたエネルギーのコストが半減できるのです。

自然界のどこにでもいる細菌を活用

革新的な技術ですね。カギを握るアナモックス菌とは特別な菌なのでしょうか。

約30年前に発見された、研究対象としては新しい菌ですが、自然界には古くから存在します。世界各地で生息が確認されていて、黒海における窒素循環の約4割がアナモックス菌との研究発表もあります。 当研究室で使っているアナモックス菌は埼玉県内の河川などで採取したもの。比較的どこでも見つかりますが、水処理に使うには量が必要なので、効率よく菌を増やすことが重要です。温度やpHなど培養にかかるノウハウは研究が進んでいますので、それが確立されれば、取り扱いはさほど難しくありません。

工場ではどのように扱うのでしょうか。

工場では使用済みの水をプールのような反応槽で処理するのですが、アナモックス菌は1ミクロン程度の大きさなので、そのままだと水と一緒に反応槽から流れ出てしまいます。そこで、高分子ゲルに包括固定し、反応槽の出口にあるメッシュを潜り抜けないように3ミリ角程度にカット。これにより反応槽内で繰り返し水処理に使うことができます。

人間と同じく微量金属のバランスが重要

この技術を普及させるために必要なことを教えてください。

この技術を普及させるために必要なことを教えてください。

いろいろな環境で安定稼働させるには、乗り越えるべき課題が2つあると考えています。 1つはアナモックス菌の確保。自然界に当たり前に存在するとはいえ、水処理プラントは規模が大きいので、供給が追いついていません。 もう1つは微量金属の最適化。工場によって水に含まれる成分は違います。たとえば半導体の工場の排水では高純度の水を使用するので、微量金属がほとんど含まれません。人間が健康のために微量金属が必要なように、アナモックス菌も亜鉛不足で活性が下がることが分かっています。その場合はサプリメントのように補う必要があります。亜鉛だけでなく、鉄や銅、ニッケル、コバルトなども影響すると思われるので、その最適なバランスを研究しています。

アナモックス菌を使った排水処理システムは海外でも導入できますか?

可能です。水質管理は途上国の方が遅れていますので、広く活用してほしいですね。アナモックス菌を使ったシステムは水処理にかかるエネルギーコストが従来の半分と、導入を検討しやすいと思いますし、土着の細菌を使えば環境負荷も低いです。 化学は公害を作ってきた過去があり、環境問題に対して反省すべき点もありますが、その反対に、豊かさを生み出してきた自負もあります。自然治癒力を活かして水源の汚染を防ぎ、きれいな環境を作る。そこにも化学が貢献できることを伝えていきたいと考えています。

関連リンク:▶ for “Water environment” きれいな水環境を次の世代へ

井坂 和一

理工学部応用化学科 准教授
専門分野:環境工学、化学工学、排水処理、固定化微生物
研究キーワード:自然観光資源管理/持続可能な観光/エコツーリズム
著書・論文等:排水処理、微生物の固定化、化学汚染物質の分解
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