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廃棄される柑橘類の皮で熱中症対策 血管を強くする成分の可能性に迫る

重症化すると命の危険を招く熱中症。地球温暖化の進行によって気温が上昇すれば、今後さらに患者数が増えることが懸念されています。理工学部生体医工学科の加藤和則教授は柑橘類の皮から、熱中症のリスクを低減する成分を発見。実用化に向けて産官学連携で研究を進めています。

重症化すると命の危険を招く熱中症。地球温暖化の進行によって気温が上昇すれば、今後さらに患者数が増えることが懸念されています。理工学部生体医工学科の加藤和則教授は柑橘類の皮から、熱中症のリスクを低減する成分を発見。実用化に向けて産官学連携で研究を進めています。

01

血管内皮細胞を保護する機能成分を発見

熱中症に関連する研究を始めたきっかけを教えてください。
熱中症は毎年話題になりますが、詳しいメカニズムは未だ解明されていません。知人の救急医から「血管が熱に弱いことが重症化の原因ではないか」と聞いたことから、血管の細胞を使って約40℃で培養を試みたところ、約2日間で相当数の細胞が死にました。42℃だと1、2時間しかもちません。このとき何が起きているのか、細胞の様子を調べると、血管の内側を構成する血管内皮細胞が潰れたように変形していたのです。
血管内皮細胞は通常どのような形状なのでしょうか。
菱形に近い形で、細胞同士がぎゅっと密着することで壁の役割を果たしています。しかし、熱の影響で細胞が変形すると、壁に隙間が生じて血液が漏れ出るようになり、体液の循環がうまくいかず、脱水が進んで危険な状態に陥ることが考えられます。
ということは、細胞が熱で変形しなければ、脱水などの症状を抑えられるかもしれません。そう考えたことが研究の始まりでした。
研究の早い段階で、はっさくや夏みかんの黄色い皮の部分に含まれる成分「オーラプテン」に変形を抑制する効果があることが分かりました。血管の細胞は約40℃の環境にさらされると2日間で相当数が死にますが、オーラプテンを加えた場合は3日後の生存率が2倍以上に伸びたのです。このような薬の有効成分を探す研究は、例えば効果のありそうな成分を1000個試して1個見つかるかどうかの確率ですが、最初に試した20個のなかにオーラプテンがあったのは幸運だったと思います。

02

ミトコンドリアの脂肪酸代謝に着目

早々にオーラプテンが見つかったのは “効果のありそうな成分”の絞り込みが適切だったからではないでしょうか。

そうですね、ヒントは脂肪酸の代謝でした。血管の細胞はほかの細胞と違って、脂肪酸を主な栄養源としています。細胞内ではミトコンドリアが脂肪酸を取り込んでエネルギーに変換するのですが、そのプロセスに関与するたんぱく質の一つが熱に弱く、変成すると脂肪酸を取り込めずに栄養不足で死んでしまうのです。ということは、脂肪酸の代謝にかかわるたんぱく質の働きを助けて、かつ熱に強いものならば代替できる可能性があるので、条件に合致する成分を探しました。

その際にこだわったのは野菜や果物から抽出できることでした。いくら有効な成分でも、人間にとって有毒では熱中症対策に使えません。食品ならば安全性が確認されているので、製品化のハードルが下がります。オーラプテンが含まれる、はっさくや夏みかんの皮はジャムやピールとして食べられていますよね。
どのくらい食べると、熱中症対策に効果があるのでしょうか。
正確なデータはヒト介入試験の結果が出るまで分かりませんが、皮を食べて必要量を摂取するのは難しく、抽出した成分をカプセルで飲むことになりそうです。ただし、これは薬ではなく、熱に強い身体を作る体質改善のサプリメントです。熱中症になってから飲んでも、夏の外出前に飲んでも、急な効果は期待できません。普段から有効成分を摂取し、熱にさらされても脂肪酸を代謝できるように血管を強くしておくことが大切です。血管を強くするという意味では、動脈硬化や高脂血症の対策にも良いのではないかと考えています。

03

普通は廃棄してしまう皮で地域を元気に

製品化はかなり近いのではないでしょうか。

いま和歌山県内の自治体と事業者の産官学連携を進めています。和歌山県は柑橘類の栽培が盛んで、はっさくついては全国の約8割のシェアを誇ります。しかし、近年ははっさくの消費量が減少傾向にあります。生産者の高齢化もあって、品種改良や6次産業化等の施策もあまり進んでいません。そこで、オーラプテンを地域活性化につなげられないかと取り組んでいるのです。

オーラプテンが含まれるのは皮だけなので、果実や果汁はジュースなど別の製品に加工できます。栽培過程では美味しい実を作るために果実を間引きする摘果を行いますが、間引いた果実の皮からもオーラプテンが抽出可能です。従来は捨てていたものが、熱中症対策のサプリメントの原料という製品になるわけです。
オーラプテン以外にも、同じような効果を発揮する成分はありますか。
シークヮーサーの皮に含まれるタンゲレチン、ココナッツオイルに含まれる中鎖脂肪酸にも効果があることが分かっています。一分子あたりの効果はオーラプテンが強いのですが、ほかの成分でも問題ありません。沖縄ならばシークヮーサーがたくさん取れますから、製品化や地域活性化につなげやすいと思います。
気候変動は地球規模の問題です。温暖化が進めば、いま以上に熱にさらされ、熱中症のリスクが高まりますから、熱への耐性を高めていく必要があるでしょう。はっさくや夏みかん、シークヮーサー、ココナッツ以外にも同じような成分を含む食品があるはずです。それぞれの地域に合った成分を見つけて、健康増進につなげる研究ができればと考えています。
加藤 和則

理工学部生体医工学科 教授
専門分野:免疫学、バイオ創薬学
研究キーワード:がん治療薬、熱中症、機能性食品