Q.大学院に進学しようと思った動機や経緯を教えてください。
A.大学院に進学しようと決意した理由は、情報と教育の組み合わせが持つ可能性に強く惹かれたからです。私は教育に興味があり、教育は人々の成長を促し、思考力や創造力を高めるものだと考えています。その中でも、学習者が楽しみながら学べる教授法に関心を持ち、研究したいと思いました。
そのきっかけの1つは学部時代に学習塾で講師を務めた経験にあります。授業で受けもった子どもは勉強をつまらなく、退屈だと感じているようでした。そこで、彼らに学習を面白いと感じてもらうために、情報学を活用することを考えました。多くの人は勉強を楽しい・おもしろいと感じることができれば、学習意欲は自然に高まります。このような教育過程に関する研究を行い、それに基づく教材や教授法を開発し、普及させたいと考えるようになりました。また、教育にデジタル技術を活用することで、教育プロセスの合理化や人間の不得意な部分を補完できることに気づきました。デジタル技術を活用した教育は日本のみならず世界中で普及していますが、さらにICTを用いたおもしろい教授法や教材を広めることで、多くの人々が学ぶ喜びを実感できるようになると信じています。そして、いずれは日本の未来の教育に貢献したいという大きな目標を持っています。
Q.大学院進学にあたり、誰かに相談しましたか。また、周囲の反応はどうでしたか。
A.大学院進学に関して学部から博士前期課程に進学する際は、主に指導教員、親、友人の三者に相談しました。特に指導教員とは、研究の方向性や研究方法を含めた研究全般について話し合いました。そして、博士前期課程から博士後期課程に進学する際には、博士後期課程修了後の進路も含め、指導教員とより詳細に相談しました。
親は私の意志を尊重してくれ、特に反対はしませんでしたが、就職に対する懸念は持っていました。友人たちの中には大学院に進学している者はいませんが、就職後も時々集まり近況を語り合う中で、状況を理解し応援してくれていると感じています。振り返ると、大学院進学に関しては具体的な相談というよりも、自分の考えを言葉にし、反復することで、自分自身の思考を深めるプロセスが重要でした。周囲の反応はそれぞれありましたが、最終的には自分の意思で大学院進学を決断しました。
Q.進学先として東洋大学を選んだ理由や、大学院を選ぶにあたって重視した点を教えてください。
A.進学先として東洋大学大学院を選んだ理由は、指導教員、大学のサポート体制・制度、社会との連携、そして母校への親しみです。
指導教員はコンピュータサイエンスやSTEAM教育に強い関心を持っており、常にグローバルな視点で世界にも目を向けています。その姿勢に信頼を寄せると共に、熱心な研究姿勢や積極的な研究発表の文化にも共感し、ここでぜひ学びたいと思いました。
大学の充実したサポート体制も大きな進学の決め手となりました。在学生への迅速な連絡対応や学生生活を適切にサポートする体制に感謝しています。また、研究発表を奨励する制度があり、この制度を活用することで奨励金を論文の投稿費などに充てることができています。
さらに、研究の過程で社会と連携する機会があります。過去の研究では、東洋大学京北高等学校と連携し、開発したシステムを高校生に評価してもらいました。国際学会に参加し、他大学の先生方と共同研究を進める経験もありました。このような学会参加を通じて新しい人や場所、文化に触れることは、研究の楽しい要素の一つでもあります。
最後に、母校への親しみも選択の一因です。私は情報連携学部と情報連携学研究科博士前期課程を卒業・修了しており、現在までに7年間通学してきました。この長い月日の中で大学への親しみが深まり、この環境で学び続けることは研究を進める上で非常に重要です。大学院生として帰属意識を持ちながら研究することは、心理的な安定性をもたらします。
以上をまとめると、特に指導教員(研究室)が最大の決定要因であり、他の要素も選択の一因となりました。
Q.研究テーマや受講している授業について教えてください。
A.博士前期課程では、研究者倫理や自分の研究分野を理解するための基礎的な研究型授業を履修しました。大学院生には、学生やさまざまな専門を持った社会人学生も含まれており、その中にはコンピュータサイエンス以外を専門とする人たちもいました。私たちは互いの強みを認識し、研究内容を理解し合いながら、ときには議論や質問を通じて研究内容に対する理解を深めました。博士後期課程では、博士前期課程で履修した授業と同様の内容が提供されています。私は博士前期課程からの進学者であり、既にほぼすべての授業を履修したので、現在は週一回の研究指導のみを履修科目としています。研究指導では、論文の添削指導や研究に関する議論を行っています。
博士後期課程の研究テーマは、情報学教育に関するものです。このテーマについて深く掘り下げ、社会に貢献できるように日々研究に邁進しています。
Q.入学してから感じた本大学院の魅力、指導教員や研究室の仲間とのエピソードなどがあれば教えてください。
A.大学院に進学して以来、本大学院の魅力を深く実感しています。特に、他校の大学院生との交流を通じて、本学の学生が持つ深い思考力と事象を言語化する能力の高さを認識しています。情報連携学研究科では、講義の一部として自ら情報を収集してから結論を導くまでの一連の研究プロセスを体験するような授業を実施しています。これにより、個々の学生の問題解決力や情報収集力、相手に伝える力が培われます。さらに、大学院生の数が他の大学院と比べて少ないので、学生一人ひとりに対する教育の質と時間が非常に充実しています。例えば、ある授業では教員と学生の比率が1対2という状況もあり、そのおかげで毎回の授業では多くのことを考える機会があり、その分多くを学ぶことができます。学生数が多い大学院では得難い、このような授業の機会がある点も本学の大きな魅力です。
指導教員や研究室の仲間との関わりでは、企業見学会、近況報告会、国際学会での発表、卒論生への研究紹介など、多くの機会があります。企業見学会では、研究室の卒業生の所属する企業に招待してもらい、実際の業務や技術を体験するだけでなく、新しい研究のアイデアを得ることができます。近況報告会では、研究室の卒業生が集まり、現在の状況や成果を報告し合い、お互いを讃え合います。国際学会での発表では、事前に準備したプレゼンテーションを元に英語で発表し、過去には論文の査読スコアが高かったことで特別賞を受賞したこともあります。この受賞は指導教員も非常に喜んでくれました。また、卒業研究に取り組む学生に自分の研究を紹介する機会もあり、彼らが研究と出会うきっかけを提供し、将来の研究過程を想像できるようにしています。質疑応答では学生と積極的に交流し、将来の研究者との関係を築いています。いずれも、研究のアイデアや将来の方向性を見つけるための重要な機会となっています。
Q.研究を進めていくうえでの苦労や課題はありますか。
A.研究を進めるうえで最も困難なのは、独創的なアイデアの発想です。多くの研究者がこの点を課題に挙げるように、私も例外ではありません。多くの研究領域では少なからず課題が明らかになっているものですが、どの課題にどのようにアプローチするかは研究者次第で、着眼点や方法は多種多様です。しかし、私はまだ博士課程の学生であり、自立して研究を進めるための力を培っている段階です。一連の研究行為を独力で遂行できるようになるためには、さらなる努力と経験が必要です。
また、個人的に研究において特に重要な課題は英語の習得です。英語は論文の読解や執筆の基本であり、国際学会での発表や質疑応答にも欠かせません。これらの場面で瞬時に適切に対応するためには、語学力だけでなく専門領域に対する深い理解も求められます。これらの能力を向上させることが、私の研究をより一層深化させるために必要だと思います。
Q.大学院での学びを通して今後目指したい姿や将来進みたい道などを教えてください。
A.大学院での学びを通じて、将来的には研究職と教育現場の両方に携わりたいと考えています。具体的な研究職としては大学の教員や研究所の職員などが挙げられますが、特に大学の教員になることで、学生と共に研究を進めることを目標としています。
また、研究成果を実際の教育現場に適用させる場にも関与していきたいと考えています。例えば、教室の設計や教育プログラムの開発など、公教育の枠を超えて研究を実践する場を広げたいという思いがあります。最終的には、現場教育への貢献を通じて、広く社会全体にも貢献していきたいと考えています。
Q.大学院生としての1週間のスケジュールを教えてください。
A. 以下に記載した内容は日常的に実施している研究の内容です。しかし、1日中同じ作業では効率が悪くなってしまうので、いくつかの内容を並行して取り組んでいます。
月曜日:論文読書
火曜日:プログラム開発
水曜日:ミーティング
木曜日:学会発表用のプレゼン資料作成
金曜日:デモ作成
土曜日:外部組織の活動やイベントへの参加
日曜日:論文執筆
Q.最後に、大学院進学を検討している方へのメッセージをお願いします。
A.自分が何に興味・関心を持っているのかを深く理解し、探究していきたい事柄かを確認することが、大学院進学への第一歩だと思います。また、最終的には自分自身の選択で道は分かれますが、成長を促し適切に導いてくれる指導教員・研究室を見つけることもまた重要です。大学院への進学には多くの挑戦と困難をともないます。しかし、その先にある未来は未知数です。自分の情熱を信じ、少しの勇気を持って一歩を踏み出してみてください。心から応援しています!
プロフィール
氏名:片野坂 俊樹(かたのさか としき)
東洋大学情報連携学部(INIAD)の1期生として入学し、プログラミングやコンピュータサイエンス、他者と連携するスキルなどを学ぶ。卒業後は同大学院情報連携学研究科博士前期課程に進学し、Fahim Khan教授のもとでゲーミフィケーションを活用した初学者向けの物理学の教育支援システムを研究する。一連の研究成果をまとめた論文は研究科内外で高く評価され、INIAD最優秀修士研究賞などを受賞した。現在は同大学院博士後期課程に進学し、同教授のもとで情報学(AIや情報リテラシーなど)の教授法について研究している。
掲載されている内容は2024年7月現在のものです。
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