Q. 進学を決意したきっかけは?
A. 一番の理由は、将来、研究職に就きたいと考えていたからです。研究職ではその分野に関する専門的な知識と技術が必要とされると思います。大学院へ進学することで、より長い期間研究に携わることができるので、より多くの知識や研究に対するアプローチの方法を学ぶことができます。また、新しいアイデアや、興味を持ったことにチャレンジできる環境があります。実際に様々な研究に触れることで、学部生時代に学んできた化学の知識の点と点が線になっていく感覚がとても面白いと感じました。今後のキャリアや、もっと化学について学びたいという思いから進学を決意しました。
Q. 現在の研究テーマを教えてください。
A. 私のテーマは「含ケイ素二座配位子の合成と、それを用いた高配位テルル化合物の創製」です。有機化学は炭素原子を中心とした第2周期元素の化学です。ここに第3周期以降の多様な重い元素を組み合わせる「有機元素化学」では、元素ごとの特徴を活かした個性的な物質を作り出すことができます。中でも第16族第5周期元素であるテルルは、9個以上の価電子を有する、「超原子価化合物」を形成しやすいことが知られています。しかし、ケイ素を配位子として有する超原子価テルル化合物は誰も作ったことがありません。そこで私は、ケイ素を配位子として有する高配位テルル化合物を実際に合成し、性質を明らかにすることを目標として、研究を行っています。
Q. 研究の面白みはどのようなことですか?
A. 今までに誰も報告していない新規の化合物を、世界で初めて自らの手で作りだすことができることだと思います。過去に報告されている知見から新しい反応の予想を立て、実際に自らの手で実験を行います。誰も見たことのない未知の反応なので失敗することも多くありますが、指導教員や研究室のメンバーと議論して改善することで、良い結果が得られたときは達成感が得られます。研究は一人ではなく研究室のメンバーと協力して行うものです。様々な場面でのコミュニケーションは新しい知識や技法を学ぶことができ、人に伝える能力も養われるので自分自身の成長にもつながり、とても有意義で面白いと感じます。
Q. 研究での苦労はありますか?
A. 実際に作る化合物の中には、空気や水と反応して壊れてしまうものがあることです。作ってみて初めて、壊れやすいことがわかることもあります。そういった化合物は、温度や空気、水分などの環境条件を徹底的に管理した状態で取り扱う必要があります。また、作った化合物が新しいものであると証明するためには、様々な測定を行いますが、その際にも空気や水分の混入には気をつけなければいけません。このような点が最も苦労する部分だと感じています。しかし、そうして手間をかけた分だけ、ターゲットの化合物の合成に成功した時の喜びと達成感は大きいと思います。

Q. 学会発表に向けた取組み(準備・活動)を教えてください。
A. 第3回関東典型元素化学セミナー (KaMECS-2024)にポスター発表で参加しました。研究のバックグラウンドと、それまでに種々検討してきた研究の結果を、限られたポスターの中に収めるのはとても大変でした。どのような構成にすれば伝わりやすくなるのか、配色や図の配置、大きさまで細かく微調整を行い、ポスターを制作しました。また、発表の持ち時間も短いため要点をまとめて話す練習を行いました。言葉遣いなどの表現方法によって印象が変わるため、研究室のメンバーや指導教員に指導していただきながら、当日まで繰り返し練習を重ねました。
Q. 学会での発表はいかがでしたか。
A. 著名な教授の方々、他大学の学部生や大学院生に向けて自分のテーマを発表することはとても緊張しました。質疑応答の時間では近い分野の研究をしている方だけでなく、少し離れた分野の研究をしている方からも様々な質問やアドバイスをいただきました。研究室内の議論だけでは得られないような新しい視点やアプローチ方法、失敗してしまった原因についてのご意見を多くいただきました。私にとって学会は多くの人との交流の場となり、多くの刺激を受けられたので、大変貴重な経験となりました。

Q. 今後の目標をお聞かせください。
A. 今後の目標は、最終ターゲットの化合物(ケイ素配位子を有する高配位テルル化合物)を実際に作り出し、その性質を明らかにすることです。これまでの検討では、最終ターゲットの2つ前の段階までの合成はできています。残るはこれをテルル原子に導入するだけですが、まだその方法は見つけられていません。ここにも大きな困難が待ち受けていると思います。学会でいただいたご意見を参考にして、様々なアプローチを用いて合成を検討していきます。また、研究を通して得た知識や資料作成スキル、プレゼンスキルをさらに研鑽し、修了後にはこれらを余すことなく発揮していきたいです。
Q. 大学院進学を検討している人にアドバイスをお願いします。
A. 大学院へ進学することで、学部の4年間だけでは得ることができなかった多くの技術や知識、経験が得られると思います。また学会などへの参加機会も増えるので、研究発表を行うことや他大学の人々と交流することは、自分自身の知見やコミュニティを今以上に広げることができます。大学院での2年間は、人生において心身ともに大きく成長することができる貴重な機会だと思っています。これから先の就職活動、社会人生活においても、大学院での経験はスキルを磨くだけでなく、自信につながると思います。進学に迷っている方はぜひ研究室へ見学に行き、先輩や先生方に相談することをおすすめします。

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