大学院は知識を習得する段階から知識を創出する段階へ進む入口

TOYO PERSON
Q.教員としてご自身の専門分野を踏まえ、「研究者として研究」することの意味とは?

ファイナンスの役割は時間軸上富の配分を通して豊かな社会を創ることです

私は数理ファイナンスという分野で研究しています。「ファイナンス」とは時間軸上に希少資源を如何に配分するかを研究する学問です。例えば、家計は消費と貯蓄を決め、将来の消費のために、貯蓄した富を投資することを考え、資金運用のニーズが生じます。企業は新しいビジネスを通して、将来の収益を出すため、研究開発投資や設備投資を行うことを考え、資金調達のニーズが発生します。このような資金運用と資金調達に関わる合理的意思決定(富の最大化)を行うための数理モデルがファイナンス理論の中心的内容となります。このように、ファイナンスの意思決定は将来の富に関わるため、その結果には不確実性(起こりうる結果が2つ以上)が存在し、これが「リスク」と呼ばれるものです。リスクに対処するため、ファイナンス理論の研究では、確率論、統計学の手法を取り入れ、より高度な数理モデルを開発するようになり、これが一般に「数理ファイナンス」と呼ばれる研究分野です。この分野の研究成果は、ファイナンスの当事者に高度な意思決定ツールを提供し、富の創出、豊かな社会を創ることに貢献します。

Q.教員としてご自身が、研究者になった経緯をご紹介ください。

物事の因果関係を探求したい気持ちが大切です

もともとエンジニアを目指していました。中国で石油化学プラントを建設する仕事をしていたとき、技術だけでは投資プロジェクトを遂行できないことを現場で実感しました。退職して、日本に留学し経済学の勉強を始めました。経済学理論の抽象的概念にうんざりしていました大学3年が終わろうとしていたとき、ロバート・C・マートン(Robert C. Merton)、マイロン・ショールズ(Myron Scholes)、フィッシャー・ブラック(Fischer Black)がノーベル経済学賞を受賞するニュースが飛び込んで来ました。詳しく調べてみると、この3人の功績は物理学で利用される熱伝導を記述する微分方程式を使って、オプションの価格に関する数理モデルを構築し、ファイナンス理論と実務でのデリバティブ取引の発展に貢献していたことが分かった。経済学では抽象的概念だけではなく、数理的計算が実際の形につながるエンジニアリングのような分野も存在する。これは面白い!Black-Scholes式と呼ばれるオプション価格式の導出を知りたい。それから、確率論など必要な数学の勉強を始め、大学院への進学を決めました。勉強をしているうちに、この研究分野は金融取引のみではなく、企業が設備などの実物資産への投資の意思決定にも広く利用されていることを知りました。これはまさしく私が当初から勉強したいことです!これはコーポレートファイナンスという分野で、経営学に関連する研究分野であることを知りました。それから、研究分野を経営学に移し、大学院で指導教授の先生方の熱心な指導もとで研究者としての道を歩み始めました。

Q.教員としてご自身のご専門分野について、現在までにどんなテーマを研究されているのかご紹介ください。

不確実性下での投資決定理論も研究しています

オプションなどのデリバティブ資産は金融資産価格の不確実性に対処するためのツールです。実物資産から生み出される将来の収益は確定ではないため、実物資産への投資も不確実となる。これの特性から、オプション理論を実物資産の投資へ応用したものがリアルオプションと呼ばれています。現在の主な研究テーマはリアルオプション理論です。その他、デリバティブ資産の価格理論、金融工学といった分野の研究にも取り組んでいます。これらの研究テーマに関心を持つ前期課程と後期課程の学生を募集しています。もちろん、これらの研究テーマ以外の経営学分野の研究に対しても指導します。

Q.大学院で学ぶことの魅力とは?

大学院は知識を習得する段階から知識を創出する段階へ進む入口

大学院ではより高度な専門知識を学び、物事を現象から捉えるのではなく、そこにある原理を探求する方法を習得する。さらに、学術論文の書き方についても学び、自分発見を世の中に伝える能力を身に着けることができる。

Q.大学院で学びを考えている受験生にメッセージを一言。

人工知能(AI)に職を奪われないために

最近の人工知能の飛躍的発展により、今後の十年以内に数百の職種が人工知能によって代替されると予測されている。大学院で学び、高度な思考能力を身に着けることは自分の将来を守るひとつの方法と考えられる。

プロフィール

氏名: 董 晶輝(ドン ジンフイ)
経歴: 現在、東洋大学大学院経営学研究科経営学専攻 教授
1998年 東洋大学経済学部卒業、2004年東洋大学大学院経営学研究科博士後期課程修了 博士(経営学)取得。
2005年より、東洋大学経営学部講師。
専門: 数理ファイナンス、金融工学、経営財務
最近の論文:
董晶輝・飯原慶雄(2014)「2次元リアルオプション・モデルに関連した微分方程式の解法」、『日本経営数学会誌』、第35巻第1,2号、pp.1-14。
Dong, Jing-Hui and Yoshio Iihara (2014), "The Optimal Timing of an Announcement for a Merger and Acquisition",International Journal of Real Options and Strategy, Vol. 2, pp1-12. December 10, 2014.
董晶輝・飯原慶雄(2015)「2変数リアルオプション・モデルの比較静学分析」『リアルオプション研究』、第7巻第1 号、pp.1 -11 。

掲載されている内容は2016年5月現在のものです。