目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する目標17 持続可能な開発のための実施手段を 強化し、グローバル・パートナーシップを 活性化する

多階層的研究によるアスリートサポートから高齢者ヘルスサポート技術への展開~社会実装に向けての研究組織連携の構築~

重点研究課題:(3) 

研究主体:生体医工学研究センター/工業技術研究所

研究代表者:加藤和則教授(理工学部生体医工学科)

研究期間:2020年4月~2023年3月

科学的根拠のある提案で、人々の健康をサポートする

5年前に文部科学省の「私立大学研究ブランディング事業」に採択されたことをきっかけに、東洋大学生体医工学研究センターでは、「多階層的研究によるアスリートサポートから高齢者ヘルスサポート技術への展開」をテーマとする研究に取り組んでいる。東洋大学では、オリンピックや世界大会などで活躍するアスリートを数多く輩出しており、科学的根拠に基づいたサポートの実現に向けて「アスリート研究」に力を注いできた。同センターが2020年度に採択された「東洋大学重点研究推進プログラム」では、これまでの研究成果や経験を、高齢者をはじめとする一般の人々にも応用し、社会に貢献することを目指す。

「3つの柱」を基盤にして、研究成果を社会に活かす

生体医工学研究センターでは、研究にあたり次の3つの柱を掲げている。その柱とは、1つ目が「科学的根拠に基づいたアスリートサポート技術の多階層的研究」、2つ目が「暑熱ストレスの可視化研究と熱中症サポート法の開発」、3つ目が「高齢者の心身の健康状態の解析とヘルスサポートシステムの開発」だ。研究チームには、学部・キャンパスを横断した計17名の教員が集結し、これら3つの柱を基盤にそれぞれ15種類の研究開発、解析研究、検証実験などを行っている。研究代表者を務める生体医工学科の加藤和則教授は、「キャンパスをまたいで他学部の先生とつながると同時に、学内外問わず横の連携を強化することで、一研究室では成し得ない大きな目標と目的を達成することができます」と話す。

今回のプロジェクトでは、アスリートだけに限らず、高齢者をはじめとした一般の人が健康を維持し、増進していくために、何が必要で何ができるのかを追求している。

例えば、加藤教授が携わっているのは2つ目の柱である「熱中症対策」の研究だ。このチームは、熱中症のリスクを低減するために効果的な成分を4種類発見した。そのうちの1つはすでに特許を出願し、成立している「オーラプテン」という成分だ。

加藤教授は「さまざまな化合物を調べていく中で発見された成分ですが、調べていくと、この成分は柑橘類、なかでもハッサクの皮に多く含まれていることがわかりました。熱中症予防に役立てるため、大手食品企業と連携して、オーラプテンを配合した商品開発を進めています。現在、機能性を検証するためにヒト介入試験を行っています」と話す。有効性が実証されれば、熱中症対策製品として商品化される予定だという。

「産官学連携」の実現が、若手人材の育成につながる

企業と組んで共同開発を進めるほかにも、日本に流通するハッサクの7割を占める生産地である和歌山県紀の川市と地元企業、和歌山県工業技術センターなどと連携して産官学連携の「ハッサクプロジェクト」を立ち上げ、活動の幅を広げている。

加藤教授によれば、和歌山県の職員や農家の皆さんと意見交換するなかで、「いかにハッサクをブランド化するべきか」という課題を抱えていることがわかったという。そこで「ハッサクプロジェクト」では、一般の人に向けたシンポジウムやワークショップなどを開催するなどして、熱中症の予防効果などの有益な情報やハッサクの魅力を発信する機会を設けている。加藤教授らは、それによって地域の産業を掘り起こし、地域を活性化させ、最終的なゴールとして地方創生につなげたいと考えている。

研究は、このように学内だけで完結するものではない。活動を進めるうえで大切にしているのは、どのような人や組織と組めば、研究成果をより社会に還元できるか、という視点だ。また、企業との共同研究や産官学連携のプロジェクトに取り組むことは、若手人材を育成するうえでも重要な役割を果たしている。

加藤教授は「生体医工学研究センターには、大学院博士前期(修士)課程や後期(博士)課程に所属する学生も所属しています。プロジェクトへの参加を通じて、どのように研究成果が社会に還元されていくかという一連の流れや実際の進め方を間近で見聞きし、体感しながら関わることができるので、これまでにない多様な経験を積むことができます。単に必要な実験を行うのではなく、大学院生が主体的にアイデアを出し合い、チームを動かしていきます。若手研究者にとって、重点研究推進プログラムの現場で得られた学びは、将来必ず役に立つでしょう」と、教育研究機関としての大学の果たす役割を述べる。

これらの「実践的な研究」は、まさに「教育」と一体化したものだ。「東洋大学重点推進研究プロジェクト」に参加する大学院生の活躍は、「大学院へ進学して、研究を続けたい」という学生の志を育て、今後の活躍の場や社会の未来図をイメージするきっかけにもなっている。

持続可能な研究・貢献のために、「3つの好循環」を具現化する

重点推進研究プログラムに取り組む生体医工学研究センターでは、基盤研究となる「3つの柱」を成功させることだけでなく、もう一つ重要視していることがある。それは、「人」と「知」と「資金」の3つを好循環させる仕組みを実現することだ。

人が循環することで、さまざまなアイデアや価値が生まれ、知となる新しい研究や成果につながっていく。知の好循環が回れば、学内研究費だけではなく外部研究費の獲得につながる。この循環をうまく機能させていくことが、人々の健康維持と増進を実現するための持続可能な研究活動を可能にする。加藤教授は「これらが絵に描いた餅にならないように、毎年目標値を設定し、大学院に何人進学し、資金獲得はどうだったのかというデータを表にしながら自己評価と外部評価を積み重ねるようにしています」と話す。この循環をうまく回すことで、SDGsの達成にもつながっていくと考えているのだ。

「創設者である井上円了先生は、『他者のために自己を磨く』という言葉を残しました。私たちはこの言葉を深く受け止め、これからも人々の健康に関するさまざまな問題を解決するために、自分たちの研究をどう磨いていくか、どう社会に還元していくか、という視点を土台に活動していきます」と述べる加藤教授は、日本や世界をリードする研究といっても、研究者同士で競い合うのではなく、横とのつながりを強化しながらチームとして大きな目標を達成していくことが重要だと捉えている。「それが、総合大学の強みであり、私たちが目指す東洋大学らしい研究ではないでしょうか。東洋大学には、そういう風土や研究の土壌が育っていると実感しています」と力強く語った。

加藤 和則

東洋大学理工学部生体医工学科教授、東洋大学生体医工学研究センター長。
東北大学卒業。東北大学大学院薬学研究科修士課程、博士課程修了。薬学博士。カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部研究員、国立がんセンター研究所薬効試験部室長、順天堂大学医学部准教授などを経て、2011年より東洋大学理工学部教授に就任。順天堂大学大学院医学研究科客員教授。専門は免疫学、バイオ創薬学など。