大学生の頃は自分が起業するとは考えてもいませんでした。工学部応用化学科で学びながら、高校時代からのバンド活動に熱中していた学生生活でした。
ただ、現在に繋がる大きな出来事があります。2年生の夏休み、短期留学でオレゴンに行きました。ある日、待ち合わせ場所でたまたま出会った男性と意気投合してペンパルに。翌年には彼の知人をたどってアメリカ横断の旅をしました。初対面の人の家に泊まったり、腕相撲大会に出場しては勝ったり。現地では人種差別や貧富の差など、さまざまなことを体験しました。また、自らアクションを起こすことの大切さも知りました。インターネットのない時代、ちょっとした出会いと手紙のやりとりが世界を広げてくれたのです。
だから僕は仕事においても基本的に人、モノ、カネの順で考えてきました。人にしっかりと向き合うことが最も大切だと考えています。
最初に化学素材メーカーに就職した当時はワープロの黎明期でした。インクリボンの開発に携わり、製造部門の人たちの協力を仰いでひたすら働きました。次いでネットワーク機器メーカーに転職。熱血営業マンでしたね。その甲斐あってか入社1年でトップセールスになり、3年で元の上司が部下になり、営業部長、営業統括になり、営業統括の時に会社は東証二部に上場しました。激務でしたが仕事が面白くて仕方ありませんでした。30代になると多数の会社からオファーがあり、移ったベンチャー企業では取締役として着任しました。
その頃にはインターネットが急速に普及し始めていました。大手メーカー1社でシステムを構築するのではなく、さまざまなメーカーの機器やソフトを繋げるマルチベンダーが主流になってくると、動作やセキュリティに悩む企業が出てきます。そこに、新規事業の萌芽を感じました。しかし在籍していた会社では取り組む意思がなく、起業に至ったわけです。
求められることをきっちりやり、プロとして結果を出せばやっていけると考えました。起業後はマルチベンダー環境でシステムやネットワークの性能や稼働状況を監視できるソフトを自社開発しました。何百ものメーカーの製品を解析し、インターネットの裏側を可視化するというものです。企業のニーズに応じて改善を続け、製品は現在「System Answer®」の名で当社の中核事業に育っています。また、事業は情報管理やセキュリティ管理、品質管理など多種の商品やコンサルティングなどにも広がっています。
今日に至るまでにもちろん苦労はありました。全財産を投げ打った結果、自己破産寸前になったこともあります。けれど、いつも誰かが手を差し伸べてくれたんです。人との繋がり、広がりのありがたさを感じ続けています。
起業の責任感がある一方で、想いだけで起業は成功しないのも事実です。技術だけでもだめ。何が求められているかをきちんと見極めることが重要です。当社の場合は、誰もやっていなかったことをゼロから創り出したことが優位性となりました。これまでにないもの、そして人に役立つものを創造することが面白いんですよ。
上には上があるし、他者と比べても仕方がない。圧倒的である必要もない。自分自身が満足でき、51対49で勝てばいい。この少しの差が大きい。起業を考える人は、そのために頑張ればいいんです。
東洋大学の卒業生の起業家および起業家精神を持った経営者の皆様から、起業に至るまでの経緯、企業経営、事業成長などの実態をお話しいただきます。
社会環境の変化が加速し、先行きが不透明で将来の予測が困難な現代においては、既存の業態、製品・サービス等にとらわれない、柔軟で新しい発想や創生・創出が求められています。社会の変容とのニーズに対応する経営行動は、経済成長と社会変容の源泉となり社会を牽引する原動力となるでしょう。
ホームカミングデーは、本年も大学祭と同日開催となります。起業家を目指す大学生も聴講可能となっていますので、学生と共にアントレプレナーシップ(起業家精神)に触れる座談会にぜひご参加ください。