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- 私の哲学 -矢口悦子×鈴木誉志男-
1969年に創業。
個人経営でありながら16店舗ものコーヒー店を展開。
さらに、コロンビアでは自社農園も運営するサザコーヒー。
大手コーヒーチェーンが主流となる中、どのように拡大してきたのか。
本学卒業生でもある創業者・鈴木誉志男さんの人生哲学とは ─。
サザコーヒー本店において、本学・矢口悦子学長との対談が実現しました。
鈴木誉志男
株式会社サザコーヒーホールディングス
代表取締役会長
法学部法律学科
1964年卒業。映画の興行プロデューサーを経て、1969年にサザコーヒー1号店をオープン。
1996年にはコロンビアに自社農園を購入。以降、茨城県を中心に首都圏にも店舗を拡大している。コーヒー文化の研究者として新商品の開発にも携わる。

矢口悦子
東洋大学学長
文学部教授。博士(人文科学)。1986年3月、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科(博士課程)単位取得退学。2003年4月、東洋大学文学部教授として着任。2020年4月より第44代学長に就任。社会教育学・生涯学習論を専門分野とする。

コーヒー農園を訪れた
井上円了の想いとは
矢口学長のご専門は社会教育学ですが、これまでにコーヒーとの接点は?
- 矢口
- 専門分野において研究を進める中、コーヒーハウスの歴史とリンクする部分がありました。17世紀のピューリタン革命の基になったといわれるコーヒーハウスが、どのようにヨーロッパで発展したのか興味をもちました。
- 鈴木
- 新聞社や出版社、金融機関など、現代社会に欠かせないシステムの出発点となったのが、ロンドンのコーヒーハウスですね。17世紀のヨーロッパの中でも、特に普及したのがロンドンです。
- 矢口
- 新聞や雑誌を読むためにコーヒーハウスに行って、交流していた人が多かったようですね。
- 鈴木
- ジャーナリズムの誕生もそうですし、大手保険機構・ロイズもロンドンのコーヒーハウスが発祥です。
- 矢口
- 私の恩師は亡くなる前、コーヒーハウスの歴史だけでなく、コーヒーの研究も熱心に行っていました。その恩師の形見が『ALL ABOUT COFFEE(著者:ウィリアム・H・ユーカーズ)』です。鈴木さんはご存じですよね。
- 鈴木
- もちろんです。私のようなコーヒーの専門家からすると、この本はバイブルですよ。コーヒーに関することがすべて網羅されています。私も約20年前に手に入れましたが、1935年に出版された改訂版と日本語版です。
- 矢口
- 私が恩師から譲り受けたのは、1922年に発刊された初版で、著者のサインも入っていて、私の宝物です。
- 鈴木
- 初版をもっている方は、国内でも数少ないと思いますよ。世界各国のコーヒー生産量や、どのように商取引が行われていたかが綿密に書かれていますので、この本を読んで勉強していました。
- 矢口
- この本を読むと、本学の創立者である井上円了先生の旅を振り返るうえでも参考になりますね。明治時代、世界を渡り歩いた円了先生ですが、コーヒーの産地であるイエメンやブラジルも訪れています。

WILLIAM H. UKERS,『ALL ABOUT COFFEE』の
初版(1922年)
- 鈴木
- まさに大旅行です。3度にわたる海外視察において、コーヒーの聖地であるイエメンには2度も訪れています。そして、ブラジルのサンパウロではコーヒー農園を視察されました。
- 矢口
- この『ALL ABOUT COFFEE』には、当時のイエメンやサンパウロの産地事情についても書かれています。
- 鈴木
- 世界のコーヒー消費量についても記されていますが、当時はアメリカがコーヒーの一大消費国になった時代です。産地であるサンパウロはコーヒー景気となるも、労働者不足に悩んでいました。そこで、多くの日本人移民がサンパウロのコーヒー農園に入耕するのですが、アメリカを中心に日本人排斥運動が起こっていたこともあり、円了先生は彼らを心配されたのだと思います。
- 矢口
- コーヒーの調査が目的ではなく、厳しい状況に置かれた日本人移民が、農園でどのような生活を送っているのかを調べたわけですね。
- 鈴木
- 旅行記には、彼らの収入がどのくらいあったのか、その暮らしぶりが明確に記されています。当時のサンパウロは、まだまだ未開の地です。日本人が生計を立てることは相当の苦労があったと思います。
- 矢口
- そうですね。そして、遠く離れた国で苦労する日本人のもとに向かった円了先生の心情もよく理解できます。
- 鈴木
- 最初に日本人移民が海を渡ったのは、1908年です。その数、約800人ですが、1年後に残ったのは200人にも満たなかったといいます。円了先生が現地に向かわれたのは、その3年後のことです。
- 矢口
- 生活習慣も言語も異なる地で、過酷な労働をしていた人々を励まされたのでしょうね。
- 鈴木
- さらに、円了先生は1回目の海外視察でヨーロッパ諸国を訪れました。特に当時のフランスは、ドリップポットの発明をはじめ、コーヒーの近代化に貢献しました。時を同じくして円了先生が訪れていることは大変興味深いですね。
- 矢口
- コーヒーの調査が目的ではなかったとしても、各地でコーヒーに出会い、旅行記の中に記していました。それは鈴木さんにとっても貴重な資料ですよね。
- 鈴木
- まるで新聞記者であったかのように、かなり詳細に記録されていますから、本当に貴重ですよ。
40年に及ぶ旅がサザコーヒーの礎に
今年3月には、円了先生をモチーフとしたオリジナルコーヒー「井上円了珈琲物語」が発売されました。
- 矢口
- サザコーヒーさんとのコラボレーションによって、円了先生の功績を広く発信することに繋がりました。視察先でのいろいろなエピソードを集約していただいて、「珈琲物語」としてくださいました。本当にうれしく思っています。
- 鈴木
- 先程お話に出た旅行記を基に、円了先生が訪れたサンパウロの日系コーヒー農園で生産された豆と、イエメンのモカマタリの豆をブレンドしました。
- 矢口
- 本当に美味しいです。味はもちろん、パッケージも気に入っています。すでに何度か購入して、卒業生や海外からのお客様にお渡ししているんです。
- 鈴木
- ありがとうございます。皆さんには味覚だけでなく、円了先生の理念や時代背景にも想いを馳せながら味わっていただけるとうれしいですね。
鈴木さんも世界各国のコーヒー産地を視察されていて、旅の連続だったと伺っています。
- 鈴木
- 私は元々、映画の興行プロデューサーでしたから、コーヒーの知識はありませんでした。ただ、美味しいコーヒーを提供したい一心でした。世界の産地を知らずして、真のコーヒー屋にはなれない。そう思い、借金をして40年間旅を続けました。
- 矢口
- まさに本質的な部分で、円了先生の教えを長い時間をかけて体現しておられるのですね。
- 鈴木
- 長年、世界のコーヒー産地を訪れた結果、自分自身で理想のコーヒー生豆を生産しようと思うようになりました。
- 矢口
- それがコロンビアの自社農園ですね。実際にさまざまな農園を訪れて、そこに辿り着いた。常に現地ありきで実証し、行動に移されていることが素晴らしいと思います。
- 鈴木
- 40年間の旅は、私の財産です。知識と経験もそうですが、やはり地域の人々との繋がりや信頼関係を構築できたことが大きいと思います。治安に問題のあるコロンビアで農場を経営できているのは、地域の人々に守られているおかげですから。
- 矢口
- 社員の皆さんも現地に行かれるのでしょうか。
- 鈴木
- バリスタはお客様に味を説明する必要がありますので、現地に行って自分たちで確認します。農園の現場を知ることはコーヒー職人として大切ですよ。
- 矢口
- 大手チェーン店がある中、ここまで店舗を拡大されてきた背景には、そうしたこだわりがあるのですね。
- 鈴木
- 良質なコーヒーを売るだけではなく、その良さをお客様に理解していただく努力は惜しみません。

コーヒーで繋がる人々の想いや文化
- 矢口
- 徳川慶喜公にちなんだ「将軍珈琲」や「渋沢栄一仏蘭西珈琲物語」といったユニークな銘柄も鈴木さん考案ですね。
- 鈴木
- コーヒーに歴史や文化が加わると、味覚だけでなく頭で考えながら飲んでくださる。他店との差別化という意味合いもありますが、それぞれに縁のある地域の皆さんに喜んでいただきたいと思って作りました。
- 矢口
- 地域の文化や歴史を掘り起こして、物語として繋げておられる。企業家でありながら、まるで研究者のようです。地域という点では、東京にも出店されて賑わっていますが、やはりここ茨城県では大人気店ですね。
- 鈴木
- サザコーヒーは地域の皆さまに育ててもらったのだと思います。ひたちなか市では「勝田全国マラソン」という、2万人以上のランナーが集まる大会がありますが、地域への感謝の気持ちを込めて、毎年3000杯のコーヒーをランナーに無償提供しています。おかげで地元では、「サザコーヒーじゃなくて、タダコーヒーだよ」という人もいるぐらいです。
- 矢口
- それは愛があっての言葉で、名誉ですよね。地域に愛されている証拠だと思いますよ。人との交流を通じてその想いをコーヒーで繋ぎ、地球社会に貢献する。まさに真の意味でのグローバルです。今、私たちが大切にしなければならない価値を体現しておられると思います。
自ら行動に移す井上円了の教えを体現
東洋大学ではウクライナ人学生を受け入れていますが、サザコーヒーでもいち早く人道支援されていますね。
- 鈴木
- あれだけの歴史的大事件ですから、いち早く動き、支援金を募ってウクライナ大使に贈りました。こういうときは、考えるよりも行動に移すべきだと思いますから。
- 矢口
- 私は、現地の学生の学びを保障する仕組みを作ろうと思いました。そこで、大使館に協力を仰ぎ、現地の大学の学長たちに直接交渉しました。今では12人の学生が本学で楽しく学んでいます。
- 鈴木
- 現地の情報を確認して行動に移す。円了先生の教えをしっかり受け継いでおられますね。
- 矢口
- 間接的な情報ではなく、当事者に直接確認することを信念としています。そこは、鈴木さんの考え方とも共通していますね。本当に困っている人がいれば、事実に即してサポートする。やはり、円了先生の考え方や行動と同じです。
- 鈴木
- ビジネスもそうですが、やはり行動に移すことが大切です。そこには覚悟が伴いますが、考えているだけでは前に進みませんから。
- 矢口
- 常に本質に迫って行動し、開拓してこられた鈴木さんが卒業生であることを誇りに思います。コーヒー愛好家の一人としても、貴重なお話を伺えてよかったです。まだまだ、鈴木さんの探究心は尽きることがなさそうですね。
- 鈴木
- いくつになっても学ぶことは楽しいですよ。私は円了先生の教えをビジネスに転換してきましたが、失敗もたくさん経験しました。でも、繰り返し挑戦しています。失敗すると周りからは辛そうに見えますが、自分が幸せなら大丈夫。幸せかどうかは自分で決めることですから。皆さんも好奇心を大切にして、たくさん挑戦してください。


東洋大学×サザコーヒー 井上円了珈琲物語
本学創立者・井上円了が、ブラジルやイエメンなどのコーヒー産地を訪れた史実を基に、サザコーヒーの本格的な味で再現されたオリジナルコーヒー。
5パック入り 1,000円(税込)
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