For Alumni 対談 東洋大学のリカレント教育 東洋大学 学長 矢口 悦子×日本大学 文理学部社会福祉学科 准教授 久保田 純

対談
東洋大学のリカレント教育

本学の社会福祉学科卒業後、横浜市の福祉現場に長年携わりながら、修士・博士課程で学びを深めた久保田純さん。
社会人経験を経て大学院で学ぶ意義とは何か。矢口悦子学長と語り合っていただきました。

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日本大学 文理学部社会福祉学科 准教授
久保田 純

1998年3月、東洋大学社会学部社会福祉学科卒業。同年4月、横浜市に入庁し、福祉現場の第一線で多様な実務経験を積む。2007年9月、東洋大学社会学研究科・福祉社会システム専攻修士課程修了、2017年3月、東洋大学福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了。

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東洋大学学長
矢口 悦子

文学部教授。博士(人文科学)。1986年3月、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科(博士課程)単位取得満期退学。2003年4月、東洋大学文学部教授として着任。2020年4月より学長に就任。社会教育学・生涯学習論を専門分野とする。

現場での問いが大学院へ向かう原動力に

矢口 久保田さんは本学の社会福祉学科を卒業後、横浜市の福祉職として20年以上にわたり現場に立ち続けてこられました。児童相談所、生活保護、高齢者支援など、多様な現場を経験されたなかで、大学院に進もうと思われたきっかけはどのようなことでしたか。

久保田 大学院進学を考えはじめたのは、横浜市に就職して七、八年が経った頃です。生活保護のケースワーカーを担当していた時期で、行政の仕事としては一通りこなせるようになってきたと感じていました。しかし、それが本当に受給者の方のためになっているのか、ソーシャルワーカーとしての専門性という意味では、まだまだ足りていないのではないかと悶々としていたんです。その気持ちを後押ししてくれたのが、学部時代の恩師、佐藤豊道先生です。卒業後も先輩たちが立ち上げた事例研究会に毎月参加させていただき、佐藤先生から現場の事例にひもづく形で理論的なアドバイスをいただいていました。学部時代には言葉として聞いていたことが、実際の現場経験を通して初めて「腑に落ちる」感覚があって。理論と実践をきちんと結びつけて学びたいという思いが強くなり、東洋大学大学院に進むことを決めました。

矢口 事例研究会という場が、大学院への橋渡しになっていたんですね。職場での反応はいかがでしたか。

久保田 上司に話したところ、業務に支障がなければ構わないと言っていただけました。横浜市の福祉職は全国的にも歴史が長く、研究者に転じた先輩も少なくありません。周囲にも「行くんだね、頑張って」と前向きに受け止めていただき、隠したり根回ししたりする必要はありませんでした。

矢口 福祉の現場はお忙しいことで知られています。仕事と大学院の学びはどのように両立させていたのですか。

久保田 大学院は社会人向けのコースで、平日は夜間開講、土曜日は昼間もという設定でした。授業は仕事が終わってから出られますし、スケジュール的にはなんとかなると思っていました。ただ修士論文となると、二年での完成はやはり難しくて。一、二年目で単位を取得しながら論文の執筆を並行して進め、三年目の最後の半年で論文を書き上げました。結局三年半かかりましたね。

矢口 社会人の場合、時間をかけて取り組むのはよくあることです。教員もその間ずっと伴走してくれますし、納得いくかたちで学んでこられたということですよね。研究室の先輩や同期も、似たようなペースの方が多かったのではないですか。

久保田 そうですね。二年でスパッと修了という方より、じっくり時間をかけている方のほうが多かった印象です。ロールモデルが周りにあったので、焦らずに進められたと思います。

現場のモヤモヤを理論が解きほぐしてくれた

矢口 修士論文ではどのようなテーマに取り組まれたのですか。

久保田 生活保護の現場で感じていた問題意識をそのままテーマにしました。生活保護はお金が絡む制度なので、支援者と受給者の間にどうしても上下関係が生まれやすい。でもソーシャルワークが大切にするのはパートナーシップと利用者主体です。その構造的な矛盾の中で、いかに受給者の方の自己決定を支えるかという問いを、会話分析という手法を用いて研究しました。受給者の方に承諾を得て面接場面を録音・文字起こしし、ソーシャルワーカーがどのような工夫をして関係性を築いているかを構造的に分析したんです。

矢口 研究倫理上の手続きも含めて、現場で長年培ってきた信頼関係があってこそ成り立つ研究ですね。大学院の学びは、実務にどのような影響を与えましたか。

久保田 とても大きな影響がありました。現場では、Aさんの支援が終わるとすぐにBさん、Cさんと、それぞれの課題が次々に出てきて支援策を検討していきます。自分のやっていることを振り返る余裕がほとんどない。でも大学院に行くと、日々の実践を理論で整理できるんです。「あのとき悩んでいたことは、こういう概念で説明できるんだ」という気づきがあって、仕事のモヤモヤがすっきりする感覚がありました。それが現場でのモチベーションにつながる、非常にいい循環でした。忙しい現場にいると、自分の仕事の意義、やりがいを見失いそうになることもあります。でも大学院で理論を学び、先生方や多様な背景を持つ仲間と実践について話し合う中で、「自分がやっていることはこういう意味があるんだ」ということを改めて植えつけてもらえる。ソーシャルワークという仕事がより好きになりましたね。

矢口 まさにリカレント教育が目指していることを体現してくださっていると感じます。修士修了後はどのような歩みを?

久保田 しばらく横浜市の仕事に専念した後、佐藤先生の退職が近づいてきたタイミングで、もう一度先生のもとで学びたいという思いが募り、博士課程に進みました。博士号を取得した頃には年齢的にも管理職への転換を求められる時期でしたが、現場とソーシャルワーク研究への思いが強く、ご縁があって日本大学で教員のお話をいただき、今に至ります。佐藤先生から受け取ったものを次の世代に渡していきたいと思っています。

矢口 学びと実践を継続され、培った力を社会に還元するかたちを探り続けてこられた。その歩みはリカレント教育の理想そのものですね。大学院での学びがいかに実務と連動しているかという貴重なお話を聞かせていただきました。最後に、今まさに現場で悶々としながらも学び直しを迷っている方へ、久保田さんからメッセージをいただけますか。

久保田 学部時代の学びが原点ではありますが、人生で一番学んだのは、社会人を経て学び直した修士課程です。現場で理不尽さやジレンマを感じることは誰にでもあると思います。でも学問の世界には、そういった状況を整理してくれる豊かな理論の蓄積があります。大学院は「勉強」よりも「研究」の場、つまり自分が知りたいことを追究していく場所です。時間のやりくりは確かに大変ですが、知的好奇心をとても刺激されますし、純粋に楽しいと思えます。職場や家族の理解を得るハードルはあるにせよ、そこから得るものは必ずその後の仕事と人生にプラスになります。悩んでいるなら、ぜひ一歩踏み出してほしいと思いますね。

矢口 自分自身のこれまでの歩み、現場で積み重ねてきたことを、距離を置いて捉え直したいと感じたとき、その「見えにくかったもの」を見えるようにしてくれる知恵と知見が大学院にはあります。多様な背景を持つ仲間と共に学ぶなかで、自分が求めているものが見えてくる。独りで学ぶのとは違う豊かさがあります。現場の経験を踏まえ、もう一度学ぶ場所として、卒業生の皆さんにはぜひ大学院を利用していただきたいですね。

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関連リンク

東洋大学のリカレント教育
https://www.toyo.ac.jp/social/recurrent/

LINK@TOYOアスリートのリカレント教育
https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/sport/reskilling_graduate_student