INDEX

  1. 「新たに学ぶ」ことにより、新たな師と出会え、さらにプラスアルファの知識を得ることができる
  2. 原点はアスリート時代の経験にあった! それぞれの競技を通して見つけた大学院でのリスキリングのテーマ
  3. 次なる夢は研究室から始まる。大学院というフィールドでアスリートたちが目指す未来

INTERVIEWEE


柏原 竜二

KASHIWABARA Ryuji
東洋大学 経済学部経済学科 卒業
東洋大学大学院 社会学研究科 


大橋 悠依

OHASHI Yui
東洋大学 国際地域学部国際観光学科 卒業
東洋大学大学院 健康スポーツ科学研究科 


鏡 優翔

KAGAMI Yuka
東洋大学 社会学部メディアコミュニケーション学科 卒業
東洋大学大学院 総合情報学研究科

※記載されている所属は、取材当時(2025年5月末時点)のものです。

「新たに学ぶ」ことにより、新たな師と出会え、さらにプラスアルファの知識を得ることができる



――大学院に入学されたきっかけや、ご所属の研究科・専攻を選ばれた理由をお聞かせください。

柏原 大学卒業後は、富士通株式会社に在籍しつつ、駅伝の解説者やレポーターも務めています。その中で選手や監督にインタビューをすることが多いのですが、聞いた内容をよりアカデミックに、根拠を持って伝えたいと思ったのが、大学院に進学したきっかけです。例えば、監督に「うちのチームは今年調子がいいんだよ」と言われても、感覚的にしか理解できなくて。解説するにあたって、もっと自分の引き出しを増やして言語化能力を高めたいと思い、社会心理学を専攻することにしました。東洋にはいい思い出がありますし、素晴らしい先生方もいます。その方たちのもとで勉強したいと思って入学を決めました。

大橋 私が健康スポーツ科学研究科を選んだのは、もともと栄養分野に興味があったからです。高校3年生で東洋大学への進学を決めたときから栄養について学びたいという思いを持っていました。ただ、当時は栄養分野を学べる食環境科学部のあるキャンパスが遠く、競技との両立が難しいと考え、一度諦めたんです。また、現役時代に貧血に苦しんだ経験から、同じ悩みを持つ人を減らしたいという思いが強まりました。競技引退後に改めて栄養管理の知識を身に付けようと、大学院進学を決めました。

 お二人とも、学びたい分野を明確に決めていたのですね。実は、私は大学院への進学は当初全く考えていなかったんです。そんなある日、レスリング部の当時のコーチに「スポーツだけをやっていても残るものが少ないからもったいない。何かプラスで学んでおけば、これから競技で好成績を残したときにその価値が高まる」とアドバイスをいただきました。私自身、パリ五輪で獲得した金メダルの影響力を感じるとともに、それがすぐに薄れて周囲に埋もれていく感覚があったのも事実です。だからこそ、競技成績の価値を高めるためにも大学院で学ぶことを決めました。東洋に決めたのは、学部時代からお世話になっている大好きな大学だから。迷いはなかったです。
 

原点はアスリート時代の経験にあった! それぞれの競技を通して見つけた大学院でのリスキリングのテーマ



――現在の研究内容や、これから取り組みたい研究について教えてください。

大橋 入学したばかりなので本格的な研究はこれからなのですが、栄養教育や食事管理がアスリートの体組成・パフォーマンスにどう影響するかを調べたいと思っています。栄養や食事の面から選手に関わり、どのような変化があったのか多角的に調査する予定です。まずは東洋大学の水泳部を対象に行う予定で、いずれは他の競技にも展開できるとベストですね。現役時代になんとなく感じていた感覚的なものを、今は学術的に理解できるのが面白いです。

 私も昨年はオリンピックで忙しかったので、大橋さんと同様に研究はこれからです。取り組みたいと考えているのは、スポーツが高齢者に与える影響についての研究。病気で杖がないと歩けないはずの祖父が、私の試合を見に来るときだけは杖なしでスタスタ歩くんですよ。「このパワーは何?」と驚き、スポーツが人々にもたらす効果などを科学的に解明したいと思いました。

柏原 鏡さんのおじいさま、すごいですね! 私は、駅伝チームにおけるキャプテンの存在と成績の因果関係について研究をしています。チームって、監督は同じでも年によって成績が良かったり悪かったりするんですよね。その要因をキャプテンにフォーカスしながら、倫理審査を通した上で質問紙調査や聞き取り調査によって解き明かしたいと考えています。
 

次なる夢は研究室から始まる。大学院というフィールドでアスリートたちが目指す未来



――ご自身の研究を今後にどう活かしたいですか?

 将来的にはスポーツ、特にレスリングを通して高齢者の方々に元気を与えられればと思っています。高齢者がスポーツに触れる機会は、まだまだ少ないのが現状です。ひそかに考えている夢は、一人でも多くの人をスポーツとつなぐために、レスリング大会を主催すること。科学的な根拠を持ったうえで取り組みたいので、今は大学院でしっかり知識を身につけたいと考えています。

柏原 私は研究を進めることによって、仕事柄よく聞かれる「なぜこのチームは強いんですか?」という問いを解明したいと考えています。そうすると、講演などで話すときに「強いチームとはどういう組織なのか」を感覚的なものではなく、科学的・心理学的な根拠をもって伝えられるようになるはずです。漠然としたものではなく、学術的な専門用語を通して伝える力を身につけられたら、自分の活動の幅はもっと広がるのではないかと思っています。

大橋 私は、アスリートが心身ともに健康的に競技に取り組み、引退まで続けられる環境を作りたいと思っています。アスリートって意外と不健康なんですよ。激しい運動による身体的なダメージに加えて、精神的な面でもとても負担がある状態なんです。元気な体でトップを目指すには栄養面が大きく関わると思うので、最大限のパフォーマンスを発揮できるようにサポートしたいです。また、競技関係者の食や栄養に対する意識も変えていけたらと考えています。

――最後に、これからの目標を教えてください。

柏原 現在の研究をしっかりと論文にまとめることです。アスリートの引退後の進路を「セカンドキャリア」と表現されることが多いですが、私はふさわしくないと感じています。2回目の人生なんて言うと、一度人生を終わらせていることになっちゃうんですよ。お二人もそうではありませんよね? 現役時代と引退後はつながっている。キャリアは死ぬまで続くものですから、まずは今取り組んでいる研究をやり切りたいと思います。

大橋 私も柏原さんと同じく、これから取り組む研究にしっかりと注力したいと考えています。研究を進める中では、新たな疑問がどんどん生まれてくるはずです。それをひとつずつ解き明かすために、学びはずっと続くのだろうと思います。アスリートが健康でいられるための研究を中心に、興味のあることにはすべてチャレンジするつもりです。

 私はまだ現役なので、研究に取り組みながらも、まずは次のロサンゼルスオリンピックでの金メダル獲得を目指します。二連覇を達成し、もう一度影響力を身につけたうえで、高齢者や子どもたちに元気を与えられたらうれしいです。競技と研究の両方を通して、もっと多くの人にレスリングを広めたいと思っています。
 

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