波多野 満雄

〈新入生へのメッセージ〉

私は英米文学科の学生としての英語の学び方についてお話ししましょう。

英米文学科の英語って何をやるんだろう?英語が好きで英米文学科に入ったけど、何をやるのかは特別気にしてなかったなあ。

高校の英語の授業の延長なのかなあ?それだとイマイチ退屈だな。

タイトルはどういう意味なんだろう。他の学部学科とは違う方法があるのかな?それとも特別な英語というものがあるのだろうか?―

タイトルを見て色々想像を巡らしているのではないでしょうか。もちろん英米文学科だからといって特別な英語があるわけではありません。それでは何が特別なのでしょうか。それは英文に対する姿勢、取り組み方です。高校までの英語の授業の目的は、英語の四技能である読む・書く・話す・聞く力を伸ばすことです。その英語に対する姿勢は受身であり、皆さんもひたすら文法や単語を覚えていたのではないでしょうか。その目標に向かっての盲目さは、ヒナ鳥が与えられた餌をそれが何なのかを考えることなく、大きくなるためにひたすら飲み込んでいる姿に譬えられるでしょうか。英米文学科以外の学生が大学で受ける英語の授業は、この高校の授業の延長です。英米文学科の学生も基礎固めとしてはこの種の授業もあります。

ええ?英語の勉強と言ったらそれしかないんじゃないかなあ。それ以外に何があるっていうんだろう?

英米文学科において英語を学ぶとはどういうことなのでしょうか?英米文学科の学生は英米の文学と英語学の両方を全員が学ぶことになっていますが、文学についての話は文学が専門の先生にお任せするとして、私は英語学が専門なので英語学を例にして「英米文学科における英語の学び方」を説明してみましょう。

次に二つの英文があります。訳してみてください。違いがわかりますか?

 

John went there yesterday.

Yesterday John went there.

 

― 違いって言われても、使われている単語はまったく同じだよな。唯一の違いはyesterdayの位置だけだ。同じ意味だよ。せいぜい訳し分けしても「ジョンは昨日そこに行った」と、「昨日ジョンはそこに行った」くらいにしかならないよ。 ―

そう、高校までの英語ならば両者の意味は同じということになります。でも本当にそうでしょうか。形(この場合は単語の配列)に違いがあれば、それは違うものなのです。そこには意味の違いや使える場面の違いが存在するのです。後者の英文の場合、通常の位置(英文の最後)から文頭にyesterdayを持ってくることで特別な意味が生じます。特別な意味にはいくつか種類がありますが、その中でよくあるのが「対比」です。後者の英文で言うと、「一昨日」や「今日」など、他の日との対比で「昨日」が使われていることになります。そう考えると訳は次のように違ってくることになります。

 

John went there yesterday.(ジョンは昨日そこへ行ったよ。)

Yesterday John went there.(昨日はね、ジョンはそこへ行ったんだよ。)(対比)

もう一問。下の二つの英文を訳してみてください。やはり違いがありますよ。

 

You must go now.

You have to go now.

 

ええと、違いはmusthave toになっているだけだろう。確かmust have toだよなあ。それじゃあ、同じじゃないか。うーん、お手上げだ。

高校では盲目的にmust = have toで覚えさせられたと思いますが、これも形が違う以上意味も違います。否定文にするとその違いがはっきりします。下記のようにmust notは「禁止」の意味になるのに対して、not have toの場合は「不必要」の意味になります。同じものならば否定にしても同じ意味になるはずですよね。

 

You must not go now.(今行ってはいけません)(禁止)

You don’t have to go now.(今行く必要はありません)(不必要)

 

では先ほどの英文に戻って、2つの英文の違いについて説明します。下記のように、mustの場合「命令」口調になるのに対して、have toの場合は「助言」のような口調になります。因みに同じく高校で覚えさせられる、will = be going to, can = be able toのセットも形が違う以上、本当は意味が違いますよ。

 

You must go now.(もう行きなさい)(命令)

You have to go now.(もう行かないとまずいよ)(助言)

 

― 違いがあるなんて、初耳だな。でも、どうしてそんな違いが生まれるのだろう?

そう、実はそれが最終的に言いたいことなのです。高校までは英語の知識を盲目的に覚えてきました。「疑問なんか持っちゃだめだ」、「そういうものなんだ」、「そんなことを考える時間があったら、単語を一語でも多く覚えろ」、こんなことを言われた経験がある人は多いのではないでしょうか。英米文学科に入ったこれからは、英語に対する姿勢をこれまでの受身の姿勢から180°転換させてください。「疑問を大切にしなさい、そして何故なのかをじっくりと考えなさい」、そう言われるようになります。大切なのは、知識の単なる吸収ではなく、疑問を持つこと、自分で考えることを習慣づけることです。「何が違うのか」、「その違いはどこから生まれるのか」、「それじゃあ、こういう場合はどうなんだろうか」、と思考の翼を広げてゆくことなのです。そうすることで英語という言語の本質、英語に対してネイティブスピーカーが持っている感覚に近づくことが出来るのです。最初に挙げた英文、Yesterday John went there.の場合も、ただ「通常文頭に来ない語が文頭にくると、対比の意味が生ずる」といった知識を丸飲みするのではまだ中途半端です。さらに考えを発展させれば、「なぜ対比の意味が生ずるのか」、「対比の他に生ずる意味はないのか」、「反対に文末に他の語を持ってきたらどうなるのか」、等々いくらでも疑問は湧いてくるはずです。

どうです。いくらかでも英語学に興味がわいてきたでしょうか。続きは英語学の授業で。

 

〈自己紹介コラム〉

専門分野:英語学(特に語用論・意味論・統語論)

主な業績:

「英語の『大和言葉』」『東洋』(東洋大学通信教育部)第29巻第11号、1992

Everについての一考察」『白山英米文学』(東洋大学英米文学科編)第28号、2003年

「英語の文法教育について」『白山英米文学』(東洋大学英米文学科編)第33号、2008年

研究テーマ:英語を中心にした言語研究


〈関連サイト〉

研究者総覧(researchmap):https://researchmap.jp/read0049405

動画で見る「Web体験授業」:https://www.toyo.ac.jp/nyushi/column/video-lecture/20170906_02.html

 

〈新入生のための推薦書〉

書名:『知的生活の方法』

著者:渡部昇一

出版社:講談社現代新書

推薦理由:私が現在の仕事を目指すきっかけとなった本です。高校時代に読んで、「こんな世界があるのか」、「こんな生き方、物の考え方があるのか」、とそれまで何となく生きてきた私に指標を与えてくれた本です。

 

書名:『お言葉ですが・・・』

著者:高島俊男

出版社:文藝春秋

推薦理由:著者は中国語・中国文学の先生で、中国語及び日本語に関する高度な専門知識を武器に、身近に起こった言葉に関する問題を面白可笑しく解きほどいてゆきます。専門に違いはありますが、私もいつかこんなエッセイが書けるようになれればと思わせる1冊です。