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赤須 薫

〈新入生へのメッセージ〉

これまでの、高校までの勉強の仕方というのは、多少乱暴な言い方をしてしまえば、概ね次のようなものです:

1+1= ? 

「問題が出されて、その答えを出す」わけですが、実は、正解は最初からあって、決まっていました。逆にいうと、答えが既にわかっているものを問題として出すわけです。この問いを本当の意味で問題として扱うならば、どのように答えを出すか、その考え方に時間をたっぷりかける必要があります。ですが、現実にはそんなことはしていられません。それに十分時間をかけている余裕はないし、先へ先へと追い立てられてしまっているというのが残念ながら現状です。「1+1=2」という「公式」めいたものが先にあって、これをいわばそのまま覚えた方が勝ちというような制度になっているのです。「1+1がなぜ2になるのか」そのプロセスが無視されていますので、「1+2=  ? という新し(そうに見えるが全然新しくな)い問題に出くわすと、それは教わってない、やってない(つまり、暗記していない)ので「できませ~ん」という結果になってしまいます、往々にして。記憶力が物を言う、暗記に頼るシステムだったのです。「1+1」がどのようにして2になるのか、そのプロセスをマスターする機会を与えられていたのなら、「1+2」という問題も、多少の「応用を利かせて」解決できるはずなのです。

誤解のないようにはっきり書いておきますが、このような「暗記システム」が全面的に悪いと言っているのではありません。暗記そのものは勉強には不可欠です。例えば、英語ができるようになるためには、単語の意味を覚えなければどうしようもありません。つづりもそうです。発音も同様。文法もしかり。問題は、記憶力だけが試される試験ばかりがはびこっているので、すべて暗記しさえすればよいというような教え方をされて(あるいは学び方をして)きて、その結果、そのような根深い偏りができ上がってしまっているというところにあります。

これからは発想の大転換を強くお勧めします。東洋大学ではムーミンが「『なぜだろう』と考えましょう」と声をかけてくれているではありませんか。このムーミンよろしく、皆さんもこれからの四年をかけて「なぜだろう」を考える癖を身につけてほしいと思います。上の問い「1+1= ? 」を借りるならば、「なぜこれが2になるのか」を考えてみることです。また、それと同時に、今後は=2(つまり、どうしたら2になるか)も考えてみてください。いろいろな解答があるはずです。1×1+1÷1でもいいし、1/2+3/2、100×2-198などいずれも正解なのです。問題の答えを求めることにばかり精を出すのではなく、どのようにしたら答えを導くことができるのか。正しい問題提起、問題設定をすることの方が実ははるかに難しいことを知ってください。これからはこちらの視点の方がより重要になってくると思います。

皆さんがこれから出会うであろう「問題」には最初から「解答」が用意されているなんてことはありませんし、これまでのように正解がひとつしかないということもまずありえないことです。正解そのものが存在しないという場合も大いにありうるでしょう。どのような問題にも十分対処できるように、マニュアル的なものを求めるのではなく、「柔らかあたま」を目指してください。

大学の一番の良さは、何と言っても「自由度」の高さだと思います。「勉強をする自由」がまずありますが、「勉強をしない自由」もあるかもしれません。自由である分、何をしてよいかわからないとか、まわりについつい流されてしまって自分を見失うということも起こりがちです。つまり、大学では自分で自分を律することが求められます。それほど難しいことではないのですが、これまでそういうスタイルというかパターンを採ってこなかった分、こういうことに慣れていないでしょうから、実際には結構戸惑うものです。いきなり自分の「やり方」を変えるのは難しいでしょう。ですから、少しずつでいいと思います。自分の頭を使って、ものごとの判断をするようにすればよいと思います。これは好き、これは嫌い、なぜならば。これがしたい、あれはしたくない、なぜならばという具合に。「ま、いいか」とか「友達がやってるし」とか「先生にそう言われたから」というのを理由にしていると、後で後悔する日がやってくるかもしれません。

四年後(必ずしも「四年」でなくてもいいですが)、自分が何をしていたいのか。それをよ~く考えるのがよいと思います。それを考えれば、自分の目標が定まってきます。自分の目標が定まれば、それに向けて何をすればよいのか、その手段、方法が見えてきます。四年。365日×4です。これだけの時間があれば相当のことができます。早く準備を始めればそれだけよい準備ができます。目標に近づく可能性もより高まるというものです。

大学での勉強は基本的には自分でやるものです。自分の興味を定めて、それに従い、それを大事にするのです。ただし、自分でやるとは言っても、利用できるものはすべて利用してよいのです。むしろ積極的に利用した方がよいのです。そういう活用の仕方を学ぶのも「学ぶこと」の重要な一側面です。友達に聞く、先輩に尋ねる、先生に相談する、事務に行く、図書館を利用する、インターネットを活用する、などなど。大いに活用してください。活用の仕方がわからない?それでは私の研究室を訪ねてください。

最後に英語の勉強に関して一言。一番重要なことは毎日英語に触れることです。毎日必ず一定量の英語を読む。毎日必ず英語を聞く。私は「英語を食べる」と表現しています。ヒトが毎日食事をするように、英語を毎日食べて自分の栄養にする。これを四年続ければ大きな財産になること、間違いありません。あとはあなたのやる気と実行あるのみです。頑張ってください。

 

〈自己紹介コラム〉

専門分野:英語学(日英対照研究、辞書学など)

主な著作物:

『コンパスローズ英和辞典』(編者、研究社)

『コーパスと辞書』(共著、ひつじ書房)

『英語辞書をつくる―編集・調査・研究の現場から』(共編著、大修館)

『ルミナス英和辞典』(共編者、研究社)

『ライトハウス英和辞典』(共編者、研究社)

『英語辞書の比較と分析』(共著、研究社)

学習英英辞書の歴史ーパーマー、ホーンビーからコーパスの時代まで』(共訳、研究社)

Bloomsbury Companion to Lexicography(共著、Bloomsbury Academic

研究テーマ:ユーザー・フレンドリー(な辞書)とは何か

 

〈関連サイト〉

https://researchmap.jp/read0027700

https://www.toyo.ac.jp/nyushi/column/video-lecture/20161213_02.html

 

〈新入生のための推薦書〉 

書名:『ことばと文化』

著者名:鈴木孝夫

出版社:岩波新書

推薦理由:私がこの本と出会ったのは、大学一年の時でした。「ことば」とか「文化」というものに対しては何となく昔から興味をもっていたのですが、この本を読んでそれが決定的になりました。そういう意味で私には大いなる「啓蒙の書」でした。読めば、その面白さがきっと分かります。

 

書名:『英文法の疑問 恥ずかしくてずっと聞けなかったこと』

著者名:大津由紀雄

出版社:NHK出版

推薦理由:外国人が英語をマスターするには文法の知識が絶対に欠かせません。英文法が苦手、嫌いだという人はぜひともこの本を読んでみてください。文法の見方が変ります。英文法大好きという人にももちろん大いにお勧めの書です。