About Toyo University 【特集】2023.3Alumni Report(佐藤酒造店 専務 佐藤 徳哉さん)

Alumni Report

pickup202303

有限会社 佐藤酒造店 専務

佐藤 徳哉 さとう かつや

Profile

2017年、理工学部応用化学科卒業。埼玉県出身。埼玉県入間郡越生町にある1844年創業の酒蔵「佐藤酒造店」専務。本学理工学部峯岸宏明准教授とともに産学連携プロジェクトとして新ブランドの日本酒開発に取り組み、2023年2月に東洋大学×佐藤酒造店によるまったく新しい日本酒『越生梅林エスティ』が発売された。


『越生梅林エスティ』の詳細は下記よりご覧いただけます。
http://www.satoshuzou.co.jp/tayori02/?p=1051

伝統をつないでいきたい。家業の酒造を継ぐことを決心。

実家の家業が代々続く『日本酒の酒造 』であるとはっきりと認識したのは高校生になった頃のことです。両親からは、実家を継がなくていいよと言われていたくらいで、進学先を決める際は実家の家業を継ごうという意識はなく、化学や生き物が好きだったことから東洋大学理工学部応用化学科へ進学しました。
大きな転機を迎えたのは大学3年生になった頃。2011年に起きた東日本大震災の影響で、元から老朽化の問題を抱えていた土蔵のひび割れが悪化したり、屋根瓦がずれるなど設備面での問題が出てきたんです。家族会議が行われ、現在の蔵のままできるところまで続けた後に会社を畳むか、新たに蔵を建て替えて姉と私で後を継いでいくのかを決めることになりました。当時から直営店で販売等を行っていた姉は、酒造を続けていきたいと。また、その頃はお店の手伝いをする程度だった私も、長い歴史がありここまで伝統として受け継がれてきたものをなくしたくないという思いが強く「継いでいきたい」と祖父に伝えました。そして、現在の蔵へと建て直し、姉は埼玉県初の女性杜氏※に。同時に蔵人※の若返りも図り、若手中心の新たな佐藤酒造がスタートしました。
大学卒業後より加わった私は、最初は何もわからない状況から始まりましたが、現在は仕込みはもちろん、販売・営業、経理的な部分まで酒造りに関わること全般に携わっています。酒造りは、30kgの米袋を20袋、計600kgを運んだりするなど想像以上に力仕事があるかと思えば、温度管理や発酵の状態を把握する繊細さも求められる仕事です。小さい蔵なので、そこで仕込みをするからこそ、人の目と管理が行き届くよう細かいことに気を配り、繊細なお酒ができあがるよう日々仕事に取り組んでいます。

※酒蔵における酒造りの責任者を杜氏(とうじ)と呼び、杜氏のもとで酒造りを行う職人を蔵人(くらびと)と呼ぶ。

埼玉県といえば「 越生梅林」、そう言われる日本酒造りを。

大学時代には微生物を扱う生命工学研究室の宇佐美論教授のもとで、専門の研究とは別に、日本酒を学ぶ一環として酵母菌の研究にも携わりました。日本酒はお酒の中でも最も複雑な過程を経て完成します。同じお酒を造ろうとしても酵母の働きや温度の設定、気象状況などの環境で異なる表情・味わいになることさえあります。醗酵に関わる工程を研究室で目に見えるかたちで学べたことは、今の酒造りに活かされていると思います。
このたび、大学時代のご縁から産学連携プロジェクトとして東洋大学との日本酒開発が実現しました。在学時から交流のあった理工学部の峯岸先生から「一緒にお酒を作りませんか?」とお話をいただいた時は、大学時代に取り組んでいた研究を、今度は生産者の立場からもう一度関われることが嬉しかったです。試験醸造は、少量に対応するような設備やノウハウもなくすべて手探りから始まりました。小さなタンクの中で目指したい味が決まり、次に大きなタンクでまた同じように仕込んだとしても同じ味になるわけではないのです。試行錯誤を重ねていき完成した日本酒は、川越キャンパスに自生しているホトケノザから分離した酵母を使っているのですが、酸味と味が豊かでしっかりとした飲み口に仕上がりました。若い方にも美味しく楽しんでいただけると思います。今後も、峯岸先生や応用化学科の学生・大学院生と共同研究を続け、第二弾・第三弾のブランド地酒を醸造していきたいです。
日本には全国各地に酒蔵があり、多くの有名銘柄の日本酒があります。「埼玉県といえば 越生梅林」と言われるほど人々に親しまれ、長年飲み続けていただけるお酒を醸していくことが今後の目標です。今はまだ日本酒に馴染みがない若い学生の皆さんにも、いつか日本酒の奥深さや楽しさを知っていただける日が来るといいなと願っています。