About Toyo University Alumni Report TSUGAnoわ こども食堂/こどもカフェ代表 田中 照美
孤食の解消や子どもたちの居場所づくり、地域住民の交流促進などを目的とした「こども食堂」開設の動きが今、全国に急速に広がりつつあります。今回ご登場いただいた田中照美さんも、千葉市若葉区で「こども食堂」「こどもカフェ」を立ち上げて、地域の子どもたちや子育て中のママたちを影で支える活動を続けています。元気な子どもたちで賑わうカフェの開催日にお伺いして、食堂を開いたきっかけや、社会福祉に対する思いを伺いました。
社会学部社会福祉学科卒。社会福祉士。千葉県若葉区生まれ。2人の娘の母。障害者向けグループホームの世話人として働きながら、2017年にこども食堂、2020年にこどもカフェを都賀駅(千葉県)近くに開設。困難を抱えた女性たちに居場所を提供する「一般社団法人マザーズ・コンフォート」副代表、こどもたちが主体となって企画運営を行う疑似社会体験イベント「わかばCBTこどものまち」実行委員長なども務めている。
疑問を感じて社会福祉学科に進んだ。
私が社会福祉の道に進もうと思った背景には、実家の仕事や育った環境があります。両親はもともと障害者施設で働いており、「障害がある人もない人も、地域で共に暮らす社会をつくりたい」という思いから、自宅を建てると同時に施設を辞め、障害者向けのグループホームを立ち上げました。私は物心ついた頃から、障害のある人たちと一つ屋根の下で生活し、日常の中で自然に人と人が支え合う姿を見て育ちました。
一見すると、親の志を自然に受け継いだように思われるかもしれません。しかし当時の私は必ずしも実家の仕事を前向きに受け止めていたわけではありませんでした。家庭と仕事が一体となった暮らしの中で、福祉の現場の厳しさや難しさを間近に見ることも多く、「人を支えるとはどういうことなのか」「正解は一つではないのではないか」と考えさせられる場面が幾度もありました。大学で社会福祉を学ぼうと決めたのも、障害のある人たちとよりよい関係を築くためには、思いや経験だけでなく、制度や支援のあり方を含めた専門的な知識が必要だと感じるようになったからです。
一方で、地域の人たちには温かく支えられてきました。畑で採れた野菜を「よかったらホームで」と届けてくれる方や、隣に住むおばあさんが、まるで孫のように私を気にかけてくれたこともあります。今振り返ると、地域の理解と応援があったからこそ、家族もグループホームを続けてこられたのだと思います。
結婚を機に実家を離れましたが、東日本大震災の翌年、父から「運営を継続することが難しくなり、ホームを閉める可能性がある」と連絡がありました。そのとき、「ここを安心できる居場所として暮らしてきた利用者さんたちの生活を、簡単に失わせてはいけない」と強く思い、夫を説得して実家に戻る決断をしました。こうして私は、改めて地域と人を支える仕事に向き合い、グループホームを引き継ぐ道を選びました。この経験は今も私の原点として、日々の支援の判断を支え続けています。
この社会はもっと暮らしやすくなる。
グループホームの仕事にも慣れた頃、「地域に何か恩返しができないだろうか」と考えるようになり、自宅の一階を開放して、誰もが気軽に立ち寄れるサロンを始めました。そこには子どもたちも多く訪れていましたが、その中に、いつもお腹をすかしている様子が気になる小学生の男の子がいました。ある早朝、インターフォンが鳴り、玄関を開けると、その子がスナック菓子を食べながら「今日、遊べる?」と立っていました。話を聞くと、事情があるご家庭で、その子は朝食としてスナック菓子を食べていることが分かりました。
その出来事をきっかけに、「食事すら十分にとれない子どもは、きっと他にもいるはずだ」と感じ、何かできることはないかと考えるようになりました。そこで思いついたのが、こども食堂です。しかし、活動の拠点となる場所を借りる資金がなく、悩んでいたところ、福祉系の地元企業が無償で場所を提供してくださることになり、2017年にこども食堂を開設することができました。
現在、食堂は月1回開催しており、毎回およそ150食のお弁当を無料で提供しています。さらに2020年からは、子どもたちの居場所づくりの一環として「こどもカフェ」を毎週金曜日に開くようになり、毎回20~30人ほどが集まっています。「お金にならない活動をよく続けられるね」と言われることもありますが、私にとって食堂やカフェは仕事ではなく、これまで支えてくれた地域への“恩送り”です。受け取った思いやりを、次の誰かへと手渡していく。その連鎖が続けば、社会はもっとあたたかくなると信じています。
こうした活動の原点には、大学時代に森田明美先生の児童福祉ゼミで学んだ経験もあります。福祉の未来について仲間と語り合った日々や、今も続く人とのつながりは、私にとって大きな財産です。福祉はやりがいのある仕事ですが、後輩には現実も含めて伝えていきたいと考えています。これからは、持続可能な仕組みづくりに挑戦する人材が、福祉の未来を支えていくのだと思います。